2008年6月13日(金)「しんぶん赤旗」
主張
高齢者医療「見直し」
割り引きしても「うば捨て山」
十三日の年金からの保険料天引きを前に、福田内閣と自民、公明が「後期高齢者医療制度」の「見直し」案を決めました。低所得者の負担軽減策の追加、一部の人の年金天引きを口座振替に変更できるようにするなど当面の対策を並べています。
後期高齢者医療制度には実施前から国民の厳しい批判が寄せられ、昨年の参院選で与党が大敗したことを受けて、福田内閣は一部凍結を余儀なくされています。
それにもかかわらず福田内閣と自公は、実施からわずか二カ月半で再び「見直し」に追い込まれました。
根本が間違っている
短い間に政府・与党が「見直し」を繰り返さなければならないこと自体が、この制度の矛盾の深さを示しています。「見直し」の継ぎはぎは、分かりにくい制度をますます分かりにくく複雑にして、新たな矛盾を生むだけです。高齢者を年齢で差別する制度の根本が間違っているのであり、廃止して一から出直さない限り矛盾は解決できません。
この制度が「平成のうば捨て山」と呼ばれるのは、お年よりを健保や国保、扶養家族から引き離し、寂しい山にぽつんと取り残すように別枠の医療制度に押し込めるからです。これが後期高齢者医療制度の根幹であり、矛盾の根源です。
「後期高齢者は、この制度の中で、いずれ避けることができない死を迎えることとなる」(厚労省の社会保障審議会)。こんな思いやりのかけらもない位置づけをして、七十五歳以上を別枠の制度に囲い込み、集中的に医療費を抑制する枠組みです。
「延命治療を望まないという選択も尊重すべき」だという財界の提言に従い、病院から追い出して安上がりの「みとり」を奨励する冷酷さは制度の根幹に由来しています。
しかも、高齢者の比率が高まるにつれ、また医療技術が進歩して医療費が増えるにつれ、高齢者の保険料を自動的に値上げする過酷な仕組みです。厚労省の資料をもとに試算すると、団塊の世代が「後期高齢者」となる二〇二五年度には保険料が二倍を超えてしまいます。
小手先の「見直し」は、はじめは低金利でも数年後に金利が跳ね上がるサブプライムローンが招いた米国の住宅ローン地獄のように、高齢者を保険料地獄に導きます。制度の根幹を温存する限り、保険で受けられる医療の中身も貧しくなっていかざるを得ません。政府・与党の「見直し」は、いわば「うば捨て山」の“入山料”の一部を一時的に引き下げるようなものです。山に連れて行きさえすれば、いずれ医療費の削減や負担増の目的を果たせるという算段です。
後期高齢者医療制度の根幹に対する怒りが、政治的立場の違いを超えて広がっています。テレビ番組で野中広務・元官房長官は、「銭勘定だけで、人間としての尊厳を認めていない」とのべました。中曽根康弘・元首相は「至急、これは元に戻して、新しくもう一度考え直す、そういう姿勢をハッキリ早くとる必要があります」と明言しています。
論戦と世論で廃止に
お年よりを嫌っていた殿様が、お年よりの深い知恵を目の当たりにして改心し、「六十歳になった年よりは山に捨てること」というお触れ書きを廃止する―。長野県の姨捨(おばすて)山を舞台にした「うば捨て伝説」は、こんなお話です。
論戦と世論の力で後期高齢者医療制度を廃止に追い込み、この伝説のように、政治に敬老の精神を取り戻そうではありませんか。
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