2008年6月11日(水)「しんぶん赤旗」

鼓動

五輪水着 スピード社製容認

疑問残すままで良いのか


 日本水連が、北京五輪で選手の水着選択の自由を認めたことは、当然の方向であり、歓迎すべきことです。

 しかし、新記録を量産するスピード社の「レーザー・レーサー」(LZR)については、手放しで認めることのできない問題があります。

「浮く感じ」

 8日まで行われた水泳のジャパンオープンでは、この水着で16個の日本記録が作られました。その性能は「百メートルで0・5秒、二百メートルで1秒ほど短縮できる」といわれていましたが、それ以上とも思える優位性を感じました。これは0・1秒を争う水泳の世界では、あまりに大きな時間です。

 しかし、これが問題となるのは「速い」からではありません。スポーツの根幹にかかわる問題が見え隠れするからです。

 LZRで泳いだ選手たちが共通して口にするのは、「体が浮く感じがする」というものです。

 ここにはルール上、見過ごせない問題があります。国際水連(FINA)は、「浮力を与える用具」を禁止しているからです。

 FINAは、世界記録が続出したのを受け、4月に再調査し、「浮力の優位性における科学的根拠はない」との短いコメントを発表しました。

 しかし、世界の水泳関係者は、これに強い疑問を呈しています。

 イタリア代表コーチはこれは「技術のドーピングだ」と語り、多くのメダリストを育てたある国のコーチも「着る薬物」と言い切っています。

 用具メーカーの関係者は、FINAの規定では「浮力」について、数字上の表記がないといった問題点を挙げます。日本水連の佐野和夫専務理事も10日の会見で、「FINAの(水着にたいする)ルール自体、あいまいなところが多い。情報を集めて対応したい」と認めています。

 LZRなどへの疑義がこれだけあるなかで、FINAは、選手、関係者に、それを解消する「見解」を示す責任があります。合わせて、日本水連もそれをFINAに厳しくただす姿勢が求められるでしょう。

過去の経験

 水泳界はかつてこんな経験をしています。

 それは、2000年のシドニー五輪の直前のこと。水着に溝をつけ抵抗を減らす「さめ肌水着」が開発され、それが一気に広がりました。開発したのは、ミズノとスピード社。この水着によって同五輪では15個の世界新記録が生まれ、うち13個がこれを着用した選手たちでした。

 しかし、五輪が終わって間もなく、その水着はあえなく使用禁止となりました。水着の表面の加工はよくない、との理由でした。

 一度、FINAが認可しながら、五輪後にそれをかんたんに覆す――。今回のLZRが、「さめ肌水着」のようなてん末をたどれば、競技団体としての信頼は失われることになるでしょう。

 とくに、スピード社は水着メーカーでは唯一、FINAの公式スポンサーとなっています。FINAには「李下に冠を正さず」の姿勢がより求められるはずです。

 北京五輪で世界記録が相次いだとき、「それは水着の力」――。そんな色眼鏡でみられたら最も悔しい思いをするのは、地道に努力を重ねてきた選手たちなのです。(和泉民郎)


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