2008年6月11日(水)「しんぶん赤旗」
交渉に混乱もち込む
福田ビジョン 議長国の資格なし
福田康夫首相は九日の地球温暖化対策の方針(福田ビジョン)についての演説で、「低炭素社会づくりの革命に真剣に取り組んでこそ、国際社会における日本の存在感を高めることができ」ると述べました。演説で示された方針で、「低炭素革命」や、それで「世界をリード」することが、できるでしょうか。
温室効果ガス削減の中期目標を示さずには北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)議長国としての役割を果たせないとの内外の批判を受け、福田氏は今回初めて、温室効果ガス削減の日本の中期目標を、試算値ながら示唆しました。ところがその数値は、二〇〇五年比で二〇年までに14%削減が「可能」だという消極的なものでした。
福田氏は14%削減の目標設定の理由について、“欧州連合(EU)が二〇年までに一九九〇年比で20%削減の目標を掲げているが、これは〇五年比では14%削減を意味する、それと同程度の削減をする”と説明します。
増加を帳消し
ところが、九〇年から〇五年までにEUが排出量を削減しているのと対照的に、日本は、京都議定書の基準年の九〇年と比べ、〇五年に7・8%も排出量を増大させています。福田氏の提起は、基準年を〇五年に変えることにより、九〇年から〇五年までの日本の増加分は帳消しにせよと要求するに等しいものです。
「〇五年比で14%削減」は、九〇年比では約7%削減にすぎません。森林吸収分を除けば、わずか4%減です。これでは、福田氏が批判している「政治的なプロパガンダみたいな目標設定ゲーム」そのものです。
「14%削減はEUと同程度」との主張も事実と異なります。EUは、他の先進国の立場にかかわりなく九〇年比で20%削減を目指しています。EUは、他の先進国が協力して新たな削減合意ができれば30%削減に踏み切るとの交渉姿勢を表明しています。「EUと同程度」というのなら、せめて、EUの30%削減目標にみあった25%削減などの高い目標を打ち出さなければ、交渉にならないでしょう。
先進国の責任
しかも福田氏は、中期目標の発表を「来年のしかるべき時期」まで先送りする立場に固執しています。これは、EUや日本などの先進国だけでなく、中国やインドなどを含む「主要排出国をはじめとする『全員参加』型の枠組み」づくりを最優先させる交渉姿勢と結びついています。これは一三年以降の新協定づくりをめざす来年末までの交渉に混乱をもちこむものではないでしょうか。
国際交渉を前進させるには、これまでの合意事項に基づいて議論を積み上げる以外に道はありません。温暖化防止をめぐっては、「共通だが差異ある責任」の原則に立ち、先進国と途上国が異なる義務を負うことが合意されています。新協定もこの立場でつくることが昨年末のインドネシア・バリ島での国連会合で確認されています。
五〇年までに世界の排出量を半減させるには、主要途上国の削減努力は不可欠です。しかし、日本や米国を含む先進国が率先して排出削減の大きな責任を果たしてこそ、主要途上国の新協定参加は容易になるでしょう。交渉の最優先課題は、そこにあります。
「主要排出国の参加が最重要課題だ」「公平な目標設定が不可欠だ」などとして、主要途上国が合意しない限り新協定はないという立場をとるならば、新協定づくりの交渉は堂々巡りを続けるだけでしょう。(坂口明)
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