2008年6月11日(水)「しんぶん赤旗」
主張
「福田ビジョン」
目標設定を駆け引きにする愚
福田康夫首相が九日記者会見し、地球温暖化対策の基本方針(「福田ビジョン」)を明らかにしました。この方針で、開催まで一カ月を切った北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)を主導するねらいです。
驚くことに、温室効果ガスの削減について二〇五〇年までの長期目標は示したものの、焦点となっている二〇二〇年までの中期目標は明示せず、来年に先送りしました。日本の姿勢が不明確だと、環境問題に取り組むNGO(非政府組織)などから批判が上がっているのは当然です。
切迫感が欠如している
世界的な気候変動や生態系の異常を引き起こしている地球温暖化に対策をとることは、文字通り人類の生存にかかわる緊急の大問題です。地球温暖化対策が最大の議題になる洞爺湖サミットを目前に、鳴り物入りで発表した「福田ビジョン」で中期目標を打ち出さないのは、この問題への真剣さを疑わすものです。
確かに長期目標では温室効果ガスを「60―80%削減する」としていますが、これから四十年も先です。まず中期目標を確立することが効果的な対策にとって不可欠であり、国際的にはすでにEU(欧州連合)などが削減目標を明らかにしています。
中期目標の重要性については、福田首相も再三認めてきました。にもかかわらずサミット前には示さず、京都議定書に続く温暖化対策が議論される来年末の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)前の「しかるべき時期」に発表するとしたのは、国際的な交渉を口実に、目標の決定を先送りしたものです。
温暖化対策は一国だけで実現できない以上、国際的な交渉はもちろん重要です。しかし、長期的にも中期的にも日本が温室効果ガスをいつまでにどの程度削減するかの目標をきめることは、温暖化対策に取り組む日本が率先してやるべきことで、国際的な交渉を口実にそれを先延ばししようというのは、温暖化に対し全く切迫感のない態度です。
与党の中には、中期目標は「交渉の道具」として使うべきで、その発表は「国益が確保できる最適な時期」とすべきだ(川口順子自民党環境部会長)とか、「カードをいつきるか、ある程度の自由度があってもいい」(斉藤鉄夫公明党政調会長=いずれもNHK「日曜討論」で)などと、目標の設定を、駆け引きの道具にすべきだという意見まであります。
とんでもない話で、福田首相や与党は、発展途上国などに削減を押し付け、日本の削減目標を低くすることが「国益」だとでも考えているのでしょうか。「先進国は二〇二〇年までに一九九〇年に比べ25―40%削減すべきだ」というのが国際的な共通認識になっています。日本はまずこの目標達成のために、自らの中期目標を決定すべきです。
国際責任が果たせない
福田首相がその「ビジョン」で中期目標を明示しないばかりか、二〇二〇年までに一九九〇年比20%削減するというEUの中期目標は〇五年比では14%にしかならないとか、14%なら日本も削減可能だなどとして、低い目標を示唆し、「基準年」見直しまで言い出しているのは、不信を広げるものでしかありません。EUとは逆に日本は排出を増やしており、14%では九〇年比でわずか4%程度の削減にしかなりません。
最近も世界の四百以上のNGOが日本に中期目標の明示を求めました。地球温暖化に大きな責任を負う先進国としても、サミット議長国としても、政府の姿勢が問われます。
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