2008年6月2日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
酪農家が告発
福岡県、北海道
各地で酪農家はきびしい経営を強いられています。福岡県南部地方と北海道釧路・根室地方からの訴えを紹介します。
高騰トリプルパンチ
元気にする政策 ぜひ
福岡県
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福岡県うきは市のわが家の平飼い鶏のエサ代が五月から二十キロで二百五十円値上がりして、二千百円を超えました。自家用でもこの値上げは痛いのに、畜産での飼料高騰は経営を圧迫しつづけています。
大川市で搾乳三十一頭、和牛の繁殖雌十二頭で経営する梅崎隆利さん(53)は、「一昨年までは自家配合飼料を作っていたが、品質の関係で混合飼料に切り替えたとたんに高騰の勢いにのみ込まれた」と話します。エサ対策に昨年十二ヘクタールの飼料用稲を栽培して、自給したり、規格外の大麦を安価で仕入れたり、繁殖雌和牛を導入して経営形態も変えたりと、苦労してきました。
息子と工夫し
息子の智隆さん(24)は北海道の酪農学園大学を昨年卒業後、隆利さんと一緒に農作業で汗を流しています。智隆さんはまだ酪農を始めたばかりですが、このまま展望のない状況から、労力の配分も含めて、米麦などにも力を入れ経営改善に意欲的です。智隆さんは、近々結婚の予定です。経営危機への対応は、アイデアと家族の輪で乗り切ることでしょう。
筑前町の池松和義さん(58)は戦後開拓した畑で妻ちえみさん(55)と酪農を営んでいます。和義さんは「飼料高騰だけじゃなく、燃料代、資材代とダブルじゃなくトリプルパンチの状況です。乳価もわずかに一キロあたり三円上がっただけで、借入金の返済に苦労している農家ばかりです。今年の秋には大変な状況が現れてくるのでは」と心配しています。和義さん、ちえみさんは、後継者はいないので、徐々に頭数を減らして、離農も視野に入れているそうです。「第一次産業を大事に、元気にする政策をやってもらわないと困る」と、ちえみさんは訴えています。
和義さん、ちえみさんの長男、和彦さんがアテネオリンピックにつづいて、北京オリンピックのレスリング・フリースタイル六十六キロ級に出場します。和彦さんは小さいころから自家製牛乳を飲みつづけ、鍛練し強じんな肉体をつくりあげ、前回の五位より上をめざしています。和義さん、ちえみさんは、和彦さんの活躍に励まされ、厳しい状況下の酪農経営をがんばっています。
個人では無理
福岡県南部地方でも、農家は、食品衛生法など問題の多い中、付加価値をつけた経営に乗り出すにも資金繰りに困っているし、後継者対策や、給料すら出せない状況で苦労しています。銀行、農協だけじゃなく、いろいろなところから借金している農家もいます。大きな経営規模の破たんもあたり前になってきています。
自給率が28%しかない飼料を国産で安定して生産できる対策が求められています。今回の飼料高騰は農家の努力だけでは、到底解決できるものではありません。
ペットボトルのお茶より、生乳が安い現実は異常です。自給率向上と、第一次産業を大事にすることが求められていることを農家を訪ねて実感しました。(福岡県みのう農民組合書記長・佐々木督文)
牛乳搾るごとに赤字
危機打開へ集会 盛況
北海道
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北海道厚岸町で昨年の十月、一人の酪農青年が自らの命を絶ちました。下の子はまだ一歳にもなっていない二人の子どもを残して、いったい何があったのかは、よく分かりません。しかし、牛舎の移転などで、一億円近い負債を抱えており、将来に対する不安が無かったとは思えません。
乳価値上げを
私たちの農協では、昨年から四戸の酪農家が営農を休止したり、搾乳部門をやめたりしています。わずか百戸余りの小規模の農協にとっては大変な事態です。
背景には、最近の配合飼料や燃料費をはじめすべての生産資材の高騰による経営悪化があります。平均出荷乳量六百五十二トン、メガファームが二割を占める大規模経営でも、一トンの牛乳を搾るごとに一万円の赤字になると言われています。
そんな中で私たちは、昨年の十二月二日、標茶(しべちゃ)町に釧路・根室地方の酪農家が集まり、一キロ当たり十円の乳価値上げをかかげ、酪農危機突破釧根集会を開催しました。集会を計画した当初は年末の忙しい時期に、あと二週間もないぞ! 第一、人が集まるのかなど消極的な意見も多数でましたが、この大変な時に、今立ち上がらずしていつ立ち上がるんだ! おれはやるぞ! ということで開催が決定されました。
記者会見、関係機関との連絡調整、トラクターの手配、ゼッケン、プラカードの作成、参加の呼びかけなどなど超多忙な日々が続きました。
そして当日は、予想以上の百三十人余りが参加、マスコミ各社も数日前から取材に入り、国会から紙智子参院議員(日本共産党)がかけつけるなど大成功をおさめました。
その後、各地に運動が広がり、乳価引き上げの第一歩を築いたと自負しています。
しかしながら、今回の引き上げ額では、今までの生産費さえ賄い切れません。まして、さらに続く生産資材の値上がりには、乳価の期中改定するほかに酪農家を救う道がありません。それとともに、地球規模での食糧難を考えると酪農のあり方も見つめ直す時期ではないでしょうか。
牛は本来、草食動物であり反芻(はんすう)動物です。人の食することのできない牧草を食べて、牛乳と肉を生産します。もちろん、再生産を保障するためには、最低限の穀物も必要かもしれません。しかし、食糧生産の効率を考えると、やはり穀物は本来、人が食べるものではないでしょうか。
国に対策求め
釧路・根室地方は、幾多の冷害を乗り越え、酪農の道を見いだしました。そして、当時とは比べようもないほど発展してきました。しかし、牛肉の輸入自由化以来、牛乳生産にシフトし急速な規模拡大が進められました。そして、穀物多給による牛の疾病多発、あふれる糞尿(ふんにょう)の環境問題などもひきおこされています。
もう一度、原点に立ち返り、牛にも人にも環境にもやさしい、家族農業を維持し発展させるため、仲間とともに、国に対しても、しっかりとした政策を求めて奮闘する決意です。(北海道厚岸町農業委員・小野寺孝一)
「日本共産党の農業再生プラン」から 「食料自給率の向上を真剣にめざし、安心して農業にはげめる農政への転換を―日本共産党の農業再生プラン」(二〇〇八年三月七日)で酪農にかんする主なものを紹介します。
「農畜産物も(中略)経営は悪化の一途をたどるばかりです。この状況を抜本的に改善してこそ、担い手の確保や耕作放棄地の解消、地域農業の振興に展望が開けます」
「畜産(中略)などを対象とした価格安定対策や助成制度を改善・拡充するとともに、野放しの輸入を規制するルールづくりをすすめます。(中略)現在の飼料供給安定基金への国の支援を強めるとともに、新たに特別の基金を創設して飼料価格の安定をはかります」
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