2008年6月2日(月)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症認定集団訴訟

切り捨て姿勢の根本転換を


 原爆症認定を求める集団訴訟で五月末、仙台高裁は二人、大阪高裁は九人の原告全員について、原爆症と認める判決を相次いで下しました。国・厚労省は、これまでの六地裁の判決につづき、控訴審でも認定却下は不法と断罪されました。

新基準のりこえる判断

 四月から原爆症認定の新基準である「新しい審査の方針」が実施されたもとでの高裁の判決は、新基準をのりこえる画期的なものでした。

 これまでの六地裁判決はいずれも、従来の基準の根幹であった「原因確率」というモノサシで機械的に認定却下を繰り返してきたことを厳しく批判しました。国は見直しを迫られ、新基準が策定されたのです。

 これによって認定は拡大されましたが、同時に「積極的認定」の枠を設け、爆心地から三・五キロ以内での被爆、爆発後百時間以内に入市、また対象疾病はがん、白血病などに限定しました。新基準によって、原告三百五人のうち百五人がすでに認定されましたが、これまでの地裁判決で勝訴した肝機能障害など「積極的認定」対象外の人は含まれていません。大阪高裁の五人と仙台高裁の二人についても、認定されないまま判決を迎えました。

 高裁判決は「原因確率」による認定却下を批判するとともに、新基準の問題を明らかにしました。

 大阪高裁判決は、認定にあたっては残留放射線の影響や被ばく状況、急性症状の有無、健康状態などを全体的・総合的に判断する必要があり、「積極的認定」の対象外とされた甲状腺機能低下症や循環器疾患などの原告についても放射線の影響を認めるべきだとしました。

 また仙台高裁の判決は、「放射線起因性」とともに原爆症認定の条件である「要医療性」が焦点になっていましたが、より幅広く判断すべきとしました。

 実施からわずか二カ月で、新基準もまた、被爆の実態にも、法の判断にも、耐えられないことが明白になりました。

 判決はまた、国の切り捨ての姿勢も厳しく批判しました。

 集団訴訟で国側は、爆心地から二キロ以遠の被爆や入市被ばくの原告について、「放射線の影響を受けていない」といいつづけてきました。それが新基準の策定後は、三・五キロ以遠の被爆や肝機能障害など「積極的認定」枠外の原告について、放射線の影響を否定しつづけています。

 「科学的知見」を理由に「原因確率」による切り捨てをつづけ、ついに「改める」といわざるをえなかったのに、まったく反省がありません。大阪高裁判決は、この新たな線引きを拒否するものです。

 また仙台高裁判決は、新基準で疾病については放射線起因性を認めながら、「要医療性」について控訴審でも争いつづけたことは「救済の精神に照らすと、いささか柔軟な対応にかけていた」と批判しました。

 いまだに「原因確率」の誤りを認めず、切り捨て姿勢に固執し、争いつづけることは許されません。

再見直しは不可欠

 すでに原告四十八人が亡くなり、咽頭(いんとう)がんのため筆談で訴えつづけ新基準で認定されたものの五日後に亡くなった原告もいます。本当に一刻の猶予もありません。

 国・厚労省は、こんどこそ司法の判断と、被爆者・原告の願いに誠実に応えるべきです。被爆国の政府として原爆被害を直視し、訴訟の全面的な解決、認定基準の根本的見直しに踏み出すことを強く求めます。


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