2008年5月31日(土)「しんぶん赤旗」
原爆症 大阪高裁も全員勝訴
新基準より 広く認定
被爆者「全面解決を」
原爆症認定申請を却下された京都、大阪、兵庫の被爆者九人が、却下の取り消しを求めた近畿原爆症認定集団訴訟(第一次)の控訴審判決が三十日、大阪高等裁判所でありました。井垣敏生裁判長は、「却下処分は違法」として一審判決を支持し、国側の控訴を棄却、原告全員について原爆症と認定しました。全国でたたかわれている原爆症認定集団訴訟はこれで八連勝となります。
判決後、「全員認定でよかった」と喜びをかみしめ何度も頭を下げた原告の井上正巳さん(77)。出席した原告四人を囲んで弁護団、支援者が次々、握手をかわしました。
判決では、今年四月からの厚生労働省の新基準で積極的認定の対象となっていない疾病も含め、すべての原告に原爆放射線の影響で発症した「放射線起因性」が認められると述べました。
井垣裁判長は、厚労省が認定に用いた放射線の線量評価システムについて、入市被爆者や遠距離被爆者についての被爆が過小評価されており、放射性降下物による被ばくや内部被ばくが考慮されなければならないとし、「機械的に適用するのは妥当ではない」と指摘。認定にあたっては、被ばく状況、その後の生活状況、発症の経緯など総合的な判断が必要だと指摘しました。
そのうえで、積極的認定対象外の原告五人を個別に検討。甲状腺機能低下症は「被爆者において発生頻度が高い」と指摘、貧血についても「放射能物質を吸入したことによる骨髄(造血)機能障害の大きな要因」と判断しました。
国家賠償請求については棄却しました。
原告九人のうち、すでに三人が亡くなりました。藤原精吾弁護団長は「全員認定の画期的な判決です。集団訴訟の全面解決を求めてひきつづき奮闘する」と語りました。
原告すべて認定せよ
共産党、厚労相あてに申し入れ
原爆症認定をめぐる仙台、大阪両高裁の原告全員勝利判決を受け、日本共産党国会議員団は三十日、舛添要一厚生労働相あてに、訴訟の全面的解決と認定基準の根本的見直しを申し入れました。
申し入れで小池晃参院議員は、長い裁判のなか原告は高齢化しているとし、政府・厚労省は上告せず、各地の裁判も含め原告全員を原爆症と認定すべきだと強調しました。
大阪高裁判決で新認定基準の「積極的認定」の対象外の原告も勝訴したことは新基準の不備を示していると指摘。「本当に救済の立場に立ち基準の再度の見直しを」と求めました。
厚労省の西山正徳健康局長は、「高裁判決は重く受け止めている」と述べ、現在、判決文を精査しているとし、早ければ来週中にも政府としての対応を決めたいとの考えを示しました。
申し入れには、小池氏のほか笠井亮衆院議員、山下芳生参院議員が出席しました。
原爆症認定の新基準 原爆症認定集団訴訟の要因となった旧基準は、六地裁で被爆の実態にあわないと批判を受けたため、厚労省は四月から新基準による認定審査を開始。しかし、六地裁で認められた疾病でも新基準では積極的認定の対象になっておらず、高裁判決で新基準の不十分な水準が問われました。