2008年5月13日(火)「しんぶん赤旗」

主張

原子力空母配備

住民投票への願いにこたえよ


 神奈川県横須賀市の蒲谷亮一市長は、「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」の請求にもとづいて「原子力空母の横須賀配備及び安全性を問う住民投票に関する条例」案を市議会に提出すると同時に、条例制定に反対する市長意見書も添付しようとしています。

 住民投票を求める署名が昨年よりも一万筆以上も多い四万八千六百十一筆(有効数)にもなったのに、市長が反対意見をつけるのは重大問題です。横須賀市民四十二万人の一割を超えた意思を無視するのは、憲法の地方自治の原則と民主主義に背を向けることです。条例案を審議する市議会の見識が問われています。

決定の主役は市民だ

 米原子力空母の横須賀基地配備は三カ月後の八月十九日です。

 配備される「ジョージ・ワシントン」と同じクラスの原子力空母は、チェルノブイリ原発のような爆発事故にはいたらなかったものの、一次冷却水漏出や原子炉緊急停止にいたる重大事故を起こしています。「ジョージ・ワシントン」が核事故を起こす危険はないとはいえません。ひとたび核事故が起これば、横須賀市民はもちろん、首都圏の三千万人が放射能の危険にさらされることになります。

 米軍犯罪の脅威も続きます。「ジョージ・ワシントン」の乗組員は、現在の通常型空母「キティホーク」とほぼ同じ五千六百人です。随伴艦の乗組員を合わせれば一万人近くにもなります。これだけ大勢の米兵が横須賀を根城にすれば、女性殺害事件やタクシー運転手殺人などの犯罪がなくなるはずはありません。

 「ジョージ・ワシントン」の配備は、横須賀市民にとって命と生活にかかわる重大問題です。横須賀市の主人公である市民の意思をまず聞くのが、筋というものです。市長が、主人公の判断を求めず配備を受け入れたことがそもそも間違いです。

 蒲谷市長は、「原子力空母配備の問題は国が判断すべきもの」なので「住民投票はなじまない」といっています。これほど憲法を無視した態度はありません。

 憲法は地方自治の原則を明記しています。その基本は住民自治です。住民の意思がまずあって、それにもとづいて自治体が行政をすすめるのが地方自治の原則の核心です。住民投票は住民の意思を示す手段の一つです。頭から否定するのは、憲法原則に反します。

 住民投票条例制定請求を拒否し、住民が平和に暮らしたいという意思の表明を封じ込めるのは、住民の平和的生存権を否定することにもなります。憲法は地域の住民が「平和のうちに生存する権利」を保障しています。住民には、核事故や米軍犯罪の恐怖と隣り合わせの生活に反対する権利があります。

 先日のイラク派兵差し止め訴訟での名古屋高裁の確定判決は、平和的生存権は理念ではなく、裁判所に訴えることもできる「具体的な権利」と認定しました。蒲谷市長はこの確定判決を重く受け止め、住民の平和的生存権の表明を認めない態度をあらためるべきです。

市議会の役割は重大

 「住民投票を成功させる会」が制定を求める条例は、原子力空母の横須賀配備の是非を問うとともに、同空母の安全性を問うことを求めています。原子力空母配備を受け入れるかどうかの是非を判断し、政府や横須賀市に市民の意思を伝えたいというのは道理のある要求です。市議会は、市民の願いに応え、条例案の成立をめざすべきです。



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