2008年5月6日(火)「しんぶん赤旗」

政治のいま なぜ

誰を思いやる 自公政治

米軍 戦闘施設も娯楽も日本が負担

国民 ガソリン増税に長寿制裁医療


 「暫定税率復活」で日本各地にガソリン大幅値上げの悲鳴があがった一日、在日米軍に年間二千億円以上の税金を投入する「思いやり」予算の新特別協定という条約が発効しました。政治の「思いやり」って何? なんのため?(榎本好孝、藤原直)


社会保障費減に匹敵

写真

(写真)米軍キャンプ座間の広大なゴルフ場。ゴルフ場の維持、従業員の人件費にも「思いやり」予算が使われています=神奈川県相模原市

 「思いやる相手を間違っとる!」。こう一喝したのは、東京・目黒区の年金暮らしの男性(76)。本紙が四月下旬に巣鴨地蔵通り商店街(豊島区)で行った後期高齢者医療制度の街頭インタビューに答えてくれた一人です。

 「国民には制度の詳しい説明もなく負担を増やすのに、アメリカにはなぜそんなに丁寧なのか」―。

 「思いやり」予算は、日米の協定(地位協定)上も日本に負担義務がないのに米軍のために出している経費です。一九七八年度から始まり、二〇〇八年度予算は二千八十三億円。米軍基地で働く従業員の労務費からさまざまな施設建設費、光熱水費、訓練移転費に使われます。施設建設は戦闘施設からレクリエーション関係までいたれりつくせりの内容です。

 SACO(沖縄に関する特別行動委員会)経費と米軍再編経費を含めると二千五百億円に上ります(グラフ)。これは、政府が福祉切り捨ての一環として、毎年、社会保障費の自然増分をカットしている額(二千二百億円)に匹敵します(表)。「生活者の目線に立った行政」(福田康夫首相)とはまったく逆の現実です。

 「年寄りにかかる金を減らしたいと、政府は、頭の中だけで後期高齢者医療制度をつくったんでしょうね。やり方がしゃくし定規だし、弱い者いじめもいいところですよ」というのは福岡市の緒方用光さん(84)。同制度の導入で健康保険の資格を奪われ、保険料は五割増しに。緒方さんは、無駄をいうなら、「米軍への『思いやり』予算なんて一番の無駄でしょう」と怒りがおさまりません。

 テレビの報道番組でも「『障害者自立支援法』『長寿医療制度』『思いやり予算』と、いろんな名前があるが、言葉にうそばっかりあるような気がしてくる」(古舘伊知郎氏、テレビ朝日系「報道ステーション」)とのコメントも飛び出しています。

根本に日米安保条約

 「思いやり」予算については、財務相の諮問機関である財政制度等審議会(会長=西室泰三東京証券取引所会長)も「従来どおりの負担の継続は適当ではない」(昨年十一月の予算編成に関する建議)と見直しを求めています。「この経費にはさまざまな非効率的な支出が含まれており…これを放置していては国民の理解を得ることはできない」とまで述べていました。

 政府は当初、「思いやり」予算に関する特別協定の交渉で百数十億円の削減を求めたとされます。ところが、米側はこれを拒否。「むしろ日本側の負担を増額することを要求する場面もあった」(西宮伸一外務省北米局長)といいます。結局、最終的には光熱水費を三年間で八億円削減するという、事実上の現状維持で合意。国会審議では自民党議員からも「最後になると、アメリカに配慮、微減で妥結というふうに終わっちゃっている」などと苦言が呈される始末です。

 なぜ、こんなことになるのでしょうか。

 その根本には日米安保条約があります。同条約は世界に数ある米国との軍事同盟の中でも対米従属性がもっとも強い軍事同盟です。対等の独立国同士の条約としてではなく、第二次世界大戦による米国の対日占領の継続として結ばれたからです。同条約に基づき日本には今でも広大な米軍基地が存在。米国は日本の外交や軍事などに大きな支配力を持っています。

 米軍駐留経費の面でも従属的で、占領期には「終戦処理費」として負担。旧安保条約(一九五二―六〇年)下では「防衛分担金」を日本が負担していました。現行安保条約下でも、七〇年代初めから沖縄の施政権返還に伴う密約に基づき、条約外支出(基地の修理・改善費など)を強いられました。

 米軍の特権的地位を定めた日米地位協定でも日本には負担義務のない「思いやり」予算の原型です。その後、同予算は大幅に拡大。安保条約と米軍基地の居座りを絶対視する自民党政府は、大胆な削減に踏み出せないでいるのです。

表

表

表

まだある優遇

NHK受信料・高速料金・飛行場着陸料…

 米軍優遇は「思いやり」予算だけではありません。日米地位協定は、消費税をはじめ各種税金の免除を規定しています。

 NHKの受信料も、米軍は地位協定で免除された税金の一種だとし、基地内に住む米兵らの支払いを拒否しています。

 地位協定により米軍は有料道路の通行料を支払う必要もありません。米兵がレジャーのため基地内でレンタカーを借りた場合も、観光バスツアーも無料通行券が使い放題です。

 日本政府は、ほかに港湾や飛行場の入港料・着陸料も肩代わりしており、過去十八年間の総額で約百九十億円に上ります。

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