2008年5月5日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
100年後の 子のために
地域の活性化 温暖化対策
岩手・紫波町
4日は「みどりの日」、きょう5日は「こどもの日」。緑あふれる自然と共生する町を100年後の子どもたちに引き継ぐことを宣言し、実行する町があります。循環型まちづくりで地域の活性化も地球温暖化対策も進む岩手県紫波(しわ)町を訪ねました。(上田明夫)
森が公共施設に
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盛岡市から南へ電車で二十分。降りた紫波中央駅は町産木材を使った駅舎(待合施設)です。一角で障害者の就労を支援する「さくら製作所」スタッフがコーヒーをサービス。町民交流のいこいの場にしようと四月二十二日オープンしました。コーヒー代として百円を寄付して星山小学校へ。
同小は昨年二月に完成した児童七十人ほどの小規模校。町有林の木材をふんだんに使った校舎に入ると、あふれるような木の香りです。机やいすも、町の森林の木からできています。
「聞こえてくる声やピアノの音がやわらかい。作文で『お城のお姫さまのよう』と書いた子もいますよ。つくりには匠(たくみ)の魂が込められていることを実感します。建設のとき、技術を次の世代に引き継ごうと若い人をそばにおいて造ってくださった。お礼にPTAもふくめみんなで四百八十本の植林をしました」と小池朝子校長。
完成が少し先輩格にあたる上平沢小学校は、全国と世界から視察が続く町内産木材使用の第一号校舎。平屋建てで明るく、音楽室は小さな音楽堂のよう。
四月に赴任した中野繁校長は「森林にスーッと入る感覚です。天井が高いので子どもの体と心が上に伸びる開放感があります」。丸い窓、三角の窓、そこからこちらをのぞく子、将棋をする子、ピアノを弾く子、外をかけまわる子、みんな元気だ。
ふつうなら統廃合になってもおかしくない学校が、どうして子どもの城に変身するのか。藤原孝町長にインタビューしました(別項)。そこには百年後の子どもたちに地域を手渡すというきっぱりした決意がありました。
土と作物と給食
「ここは町の直営です。町が責任をもち堆肥(たいひ)をつくるところはほかにないでしょう」と産業部農林課の小田島栄太郎課長。最近韓国からも視察にきたという資源循環の核施設「えこ3(さん)センター」です。
説明によると、化学肥料でおかしくなった土を本来の土に戻そうと、同町で盛んな畜産から出る排せつ物、家庭や学校から出る食品残さ、農家から出るもみ殻を集めて堆肥を製造し、農家に使ってもらいます。間伐材やかんなくずで木質ペレットも製造、学校などのストーブに使います。「五年がかりで品質の向上に努めた」と小田島課長の説明も自信にあふれます。
さっそく学校給食センターの担当者の案内で堆肥を使い学校に米や野菜を納める農家へ。
田んぼを提供し小学生に田植えや稲刈り、収穫祭をしてもらっているという米作り農家の工藤信悦さん(52)。連休後に田植えをする苗のハウス前で「『えこ3』の堆肥で生きた土に変わる。量が多いのでまくときは大変だが、収量は多いし、費用も少なくてすむ。冷害のときに化学肥料の土地と全く違うのには驚いた」
野菜農家の阿部チヤさん(74)の畑にもうかがうと、「『えこ3』の堆肥はすごいの。小松菜もニラも野菜すべてがコリコリおいしく、早く育つ。キャベツもやわらか。育ちがいいから虫もつく暇がない。今朝も四時半に起きたけど、春は収穫が間に合わない」と忙しそうです。
人も地域も元気
アカマツ、スギ、カラマツ、クリなど本体はすべて町産木材でつくられたのは虹の保育園(公設民営)。「地域の出生が増えているんですよ」と園長の小笠原久子さん。安心して預けられるこの保育園の存在が大きいそうです。園児は百三十五人(職員三十五人)。
「『こんな建物、保育園はよそにない、守ってあげよう』と地域のおじいちゃん、おばあちゃん、父母が保育園を訪れ、いろいろ協力してもらっています」と小笠原さん。「中学校でことし田んぼに植える稲を、園児が給食で食べる計画になっているんですよ」と楽しみな様子です。先の星山小の小池校長も「土地の人の熱意と協力で学校が建ち、町の事業所、会社の仕事づくりにもなった。経済の循環で町が活性化しました」と語っていました。
議会で木造校舎を推進した日本共産党の村上充町議は「中学校の補修費は二億円かかるのに、築四十五年の木造校舎は九百万円」と木造の経済性を指摘します。駅前のNPO法人「紫波みらい研究所」に同行してもらった細川惠一町議は天井を指さし、「火災にあった虹の保育園の木材を再加工して、この環境・循環PRセンター建設にたくさん使われています」と説明してくれました。
百年後の子どもたちにとって大きな危機は地球温暖化。二〇〇一年の紫波町循環型まちづくり条例は「地球規模の環境破壊を食い止める」と宣言し、その後、バイオマスタウン構想も発表しました。文書を読むと、この八年の多くの施策がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第四次報告で示した、農業、林業・森林、廃棄物のCO2排出量削減方法とピタリ合致していることに驚きました。
藤原孝町長に聞く
循環型まちづくりの今
農業、子育てなどすべての事業の基本に、環境と福祉のまちを目指す「循環型まちづくり」をすえています。本格的には「新世紀未来宣言」(二〇〇〇年)から始まりました。
山の木は活用されなければ、森に手が入らずヒョロヒョロの木ばかりになる。そこで町産木材を使い公共施設を木造にしました。駅待合施設、小学校二校、保育園、消防団屯所などです。森林資源循環です。
森林・木材の活用がなければ、大工も廃業して技術が継承されない。この技術を伝承するためにも地元の大工が地元材を使って学校などを建てたのです。
基幹産業の農業では牛、ブタなどの家畜排せつ物、事業系の食品残さなどを「えこ3センター」で堆肥化し、農家に供給することで農地に返しています。農家が作った米、安心・安全の野菜は学校給食に出され、子どもたちに食べてもらっています。
循環型農業で、子どもたちまでぐるっとまわるのです。今年は農産物のブランド化で大いに売り出す計画です。
「循環型まちづくり」の核心は「宣言」や「循環型まちづくり条例」で“百年後の子どもたちに紫波の自然を引き継ぐ”と定めています。地球がおかしくなっているいま、紫波の原風景を百年後に手渡したいのです。
八年を振り返ると、「循環型まちづくり」が経済循環、地域活性化につながっています。地球温暖化対策も、地域からさらに推進しようと三月議会の所信表明で「CO2削減に向けた事業に取り組む覚悟」と述べたところです。四月に市民参加条例が施行されました。いっそう施策を住民参加で進めたい。
新世紀未来宣言
日本文化の源流は農村の山ひだにありました。
森の中から水が湧(わ)き、人々は集い、集落を形成し、自然と共存し、自然を崇拝してきました。
厳しい自然に耐えた集落には、先人の知恵の結晶ともいうべき生きるための哲学があり、連綿と伝えられてきました。(中略)
母が見た風景を、浴びた陽の光を、感じた風を、清冽(せいれつ)な水を、そして紫波の環境を百年後の子どもたちによりよい姿で残し伝えていきます。
紫波町 人口3万4000人。北上川流域の稲作、畑作のほか、畜産や果樹栽培も盛んです。もち米は屈指の産地。もち米もエサにした「もちもち牛」や「しわ黒豚」も有名。森林は面積の約58%。藤原町長は3期目。共産党もくわわる会と協定をむすぶ民主町政です。
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