2008年5月3日(土)「しんぶん赤旗」

硫化水素自殺

巻き添え被害深刻

ガス拡散で周囲に死傷者 後遺症危ぐも


 家庭用洗剤などで硫化水素を発生させての自殺や事件が続き、深刻な巻き添え被害も相次いでいます。


 硫化水素は、卵の腐ったようなにおいを持つ無色透明の気体。空気より重く、高濃度で吸い込むと呼吸障害を起こして死亡する危険なガスです。

 専門家はにおいを感じたら近づかず、風上に避難することが大事だと指摘しています。硫化水素は火山ガスや汚泥などにも含まれ、過去には登山客や下水処理の作業員らが死亡する事故も起きています。

 一連の自殺は、ガスの発生のさせ方や張り紙など手法が似通っており、昨年来インターネット上に流れ、最近になって急激に広がった情報が影響しているとみられます。

 一日には、硫化水素を発生させて同居する実母の殺害を図った殺人未遂事件が起きました。「練炭(自殺)より楽」などという不正確で悪質な情報が独り歩きし、被害を広げています。

 ガスの発生に使われる家庭用洗剤などは届け出が必要な毒劇物ではなく、だれでも購入できます。厚生労働省は四月二十五日、関係団体に、販売のさい、不審な点があれば、身元や使用目的を確認するよう求める通知を出しました。

 巻き添え被害は深刻です。

 三月に神戸市内で男性が自殺した例では、助けようとした男性の父親が死亡し、母や兄も被害を受けました。四月に大阪府枚方市の女性が自宅で自殺した例では、母親が意識不明の重体になり、祖父、祖母らが治療を受けました。

 四月に高知県香南市で起きた女性の自殺では、付近の住民約九十人が病院で治療を受け、十四人が入院。ガスが付近に広がったため、七十五人が避難所で不安な一夜を過ごしました。

 乳幼児が巻き添えでガスを吸い、病院で治療を受けた事例もあり、後遺症を心配する声があがっています。

 巻き添え被害の広がりで、警察庁は、硫化水素の発生が疑われる場合、住民避難などの二次災害防止策をとるよう、全国の警察本部に指示しました。また、硫化水素についての情報を、ネット接続業者やサイト管理者に削除を求める「有害情報」として取り扱うことを決めています。

 大阪大学医学部法医学教室の的場梁次教授は「拡散するガスは、周辺にいる人も巻き添えにする危険が高い。硫化水素は毒性が強いので、家族や近くにいる人までガスを吸ってしまい、最悪、動けなくなって死亡することにもなる。発生するガスの量や広がりも予測がつかないまま実行されるので、周囲に迷惑をかける恐れが高い」と警告します。


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