2008年4月25日(金)「しんぶん赤旗」

主張

福知山線事故3年

風化させず安全の責任果たせ


 マンションの一階部分に突っ込み、大きく壊れて重なり合った何両もの車体、痛々しく傷ついた被害者、鳴りやまぬ救急車のサイレン…。いまでも昨日のことのように思い出される、兵庫県尼崎市でのJR福知山線脱線事故の惨状です。

 百七人の死者、五百人以上の負傷者を出した二〇〇五年四月二十五日の大事故から丸三年を迎えました。事故を風化させず、教訓を生かし、政府やJRに安全への責任を果たさせていくことが重要です。

原因と対策の明確化を

 「三年もたてば怒りや悲しみ、つらさが少しは和らぐのではないかと思っていました。しかし、時は癒やしてくれなかった」―。事故で一人娘を亡くした大阪市の藤崎光子さんが、「しんぶん赤旗」日曜版の記者に語ったことばです(二十七日号)。

 事故から三年たっても癒やされない遺族や被害者の心と体の痛みには、想像に余りあるものがあります。亡くなった方の遺族とJRとの補償の話し合いも、昨年末までで示談が成立したのはわずかに二割を超えた段階といわれています。交渉のテーブルに着くことさえためらう遺族や被害者の感情に配慮し、JRは加害者としての謝罪や補償の内容に万全をつくすべきです。

 事故原因の調査にあたった国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会は昨年六月、スピードの出しすぎなど直接的な事故原因に加え、乗務員への懲罰的な「日勤教育」や無理なダイヤ編成、新型ATS(自動列車停止装置)の設置の遅れなどを事故の背景として指摘した最終報告書を発表しました。しかし、国の監督責任は明確にされず、刑事責任追及に向けた兵庫県警の捜査も長期化しています。事故原因の究明も、責任の追及も、まだ道半ばです。

 事故直後から、利益優先で安全を二の次とするJR西日本の異常な経営体質が批判され、同社の大阪支社長が「稼ぐ」を方針の第一としていたことは、事故調の報告でも取り上げられました。JR西日本が「安全を最優先する企業風土の構築」を打ち出したのは事故直後でしたが、事故調の報告を受け、社内に設けた有識者会議の検討も経て、この四月新たに今後五年間の安全基本計画を公表しました。問題は「安全最優先」などの言葉を掛け声だけにせず、ソフトの面でもハードの面でも、それをつらぬくことです。

 事故調の報告で指摘された懲罰的な「日勤教育」の改善や新型ATSの設置なども始まってはいます。しかし昨年から今年にかけても、感電事故、除雪作業員の触車事故、塗装作業員の墜落事故などが発生しており、事故をゼロにしなければ「安全最優先」の企業風土が確立したことにならないというのが現場の声です。慢性的な人手不足や外注化も深刻です。職場の労働組合は、働くものの責務として、安全基本計画を「絵に描いた餅(もち)」に終わらせないとしていますが、その思いは利用者・国民にとっても共通です。

規制緩和路線の見直しを

 見過ごすことができないのは、規制緩和路線にもとづく政府の責任です。JR西日本で新型ATSの設置が遅れた背景にも、政府が私鉄には義務付けたATSの設置を、民営化後のJRには義務づけなかったことと無関係ではないと指摘されました。

 近年、食品の安全問題など「規制緩和」が原因になった事件や事故が続発しました。安全より効率を優先した路線を根本から見直すことこそ安全の確立に不可欠です。


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