2008年4月21日(月)「しんぶん赤旗」
欧州温暖化対策調査団
笠井亮団長の報告(下)
(3)調査を通じて分かったこと
(3)「持続可能な発展戦略」のもとに温暖化対策を通じて社会のあり方を問い、再生可能エネルギーを活用して いるかどうか(つづき)
■交通政策・エネルギー消費を減らす街づくり
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環境にやさしい町、「環境首都」として知られるフライブルクの交通政策は教訓的でした。古い町でも路面電車を復活させ、市民合意で公共交通網を整備していて、路面電車・地域交通(列車)、バスを正確に接続させているので、待たずにすぐ乗り継げることを実体験しました。
「国家自転車計画」を持つドイツで、同市でも、ゆとりある自転車道・駐輪場が整備されています。自動車や自転車のシェアリング(共有)、フランス軍基地があった新興住宅街=ボーバン地区(四千七百人が居住)の「カーフリー」(車のない街)・駐車場整備・エコ住宅の取り組みで、「子どもたちが安心して住居の外で遊べる持続可能な街づくりで、生活の質が向上した」という話も印象深いものでした。
人口が年1%増加する同市では、新しい住宅団地は路面電車の路線を整備してからつくるといいます。中心部に来る人は、徒歩23%、自転車27%、公共輸送18%、自動車32%で、自動車利用が非常に抑制されていました。
ロンドンの「混雑料金(混雑税)」制による自動車規制は対象面積が三十八平方キロで、千代田、中央、港区の都心三区の面積にほぼ匹敵します。幹線道路は除外されており、そこでは依然混雑はありますが、全体的には、自動車乗り入れ規制の対策としてバス・自転車専用レーンが拡充され、地下鉄も新車が大量に導入され運転間隔も短縮されているようです。
■軍事と温室効果ガスの排出
軍事とのかかわりは、EUの回答文書によれば、現在の排出量計算ルールに従えば、国内での活動や、第三国における基地内での活動(すなわち平和時の活動)で軍隊が排出するガスは、各国の温室効果ガスに含まれているそうです。
国際航空と海上交通は京都議定書のもとでは排出制限の対象とされていませんが、これらの分野の排出が対象となる場合には、軍事活動に起因するこれらの分野での排出も含まれるべきか、議論する必要が出てきます。
(4)二〇一三年以降をめぐる国際交渉のなか、日本政府に寄せられる期待と注文、いらだちを受け止めて
欧州諸国は、京都議定書の第一約束期間(〇八―一二年)後に向けて、国際的にも積極的なイニシアチブを発揮しようとしています。それだけに、本来、日本が果たすべき役割と責任への期待が大きく、あちこちで、“日本政府は中期削減目標をバリでもダボスでも言わない。どうなっているのか”という思いから、私たち調査団に、「日本はどうするつもりか」と逆質問が寄せられました。
ドイツの環境・自然保護・原子力安全省からは、「G8議長国として、日本の役割が大きい。京都議定書内での最低限の努力を期待したい」との声があがりました。
イギリス環境・食糧・農村地域省も、「イギリスの経験は、公的協定など温暖化防止の国内対策が実行可能なことを示している」と、日本などに同様の取り組みへの希望が述べられました。
欧州委員会環境総局からは、「とりわけ日本が、拘束力ある排出削減の枠組み導入、温室効果ガスの25―40%削減をめざす中期目標の設定、排出量取引市場への参加を進め、指導性を発揮してほしい」と言われました。
ヨーロッパでも、こういう日本政府へのいら立ちがあるからこそ、今回の私たちの訪問を通じて、「日本には異なる意見がある」ことを知ってもらえたようです。欧州委員会環境総局からも、「あなたがたが出す政策提言を知らせてほしい。今後もコンタクトをとっていきたい」などの希望が寄せられました。これからも大いに意見・情報交換を通じて協力関係を進めていきたいと考えています。
(5)日本の地球温暖化対策に向けた提起
最後に、今回の調査結果を、日本の地球温暖化対策にどう生かしていくかについて、調査団として議論していることを若干ご紹介して終わりたいと思います。
一つは、政府が産業界との間で温室効果ガス削減のための公的協定を結ぶこと、二つめに、再生可能エネルギーの活用を大胆に増やす、特に自然エネルギー電力の固定買取制度の導入に踏み出すこと、三つめに、二酸化炭素の排出をコストに反映させる排出量取引制度、排出量に応じた環境税の導入など、排出削減を促す経済的措置をとること、四つめに、わが国でも中長期削減目標を明確に盛り込んだ日本版「気候変動法案」のような法制度をつくるべきことなどです。大いにご意見、ご提案を寄せていただきたいと思います。長時間ありがとうございました。(おわり)
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