2008年4月20日(日)「しんぶん赤旗」
欧州温暖化対策調査団
笠井亮団長の報告(中)
(3)調査を通じて分かったこと(つづき)
(2)政府がきちんとルールつくり、削減目標達成の具体的手だてがとられているか
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日本との違いの第二は、削減目標達成のために政府がルールをつくり、それを確保する具体的な手だてがとられているかどうかという問題です。国民一人ひとりの努力はもちろん大事ですが、全体の目標を達成するうえでは、電力、鉄鋼など大量排出元の大企業・財界がきちんとやることが一番のカギです。
ヨーロッパの主要国では、政府が中長期の拘束力ある削減目標を明確に定め、それを達成するため、ルールをきちんとつくり、産業界との協定を結んで削減させるようにしていました。それが、絶対的目標を達成する手段として、環境税、排出量取引などとともに位置づけられ、実際に削減に成功しています。
■政府と産業界の協定
政府と産業界の公的協定について、ドイツでは当初は産業界が反対し、自主規制方式を通していました。しかし環境保護団体などから強い批判の声が出され、二〇〇〇年に政府と十九の産業団体との間で協定が締結されました。業界ごとに取り決めがなされ、国際競争力を維持しながら、経済成長も可能にし、効率的にCO2を削減していくというものです。
この協定でドイツ産業界は、二〇一二年までに21%削減するという自主目標をさらに上乗せし、原単位あたり35%削減するという目標を打ち出しています。独立研究機関が協定順守状況を監視し、違反企業にはエネルギー税制上の優遇撤廃など厳しい措置を課すことで、目標履行を図っていることがわかりました。
イギリスの気候変動協定は、政府と五十以上の産業セクターごとに結ばれ、六千企業が参加しています。高い削減目標を持ち、削減効果の高い協定で「〇六年までに二十の部門で生産を増大させながらCO2排出を減らした」とのことでした。
鉄鋼などエネルギー集約部門の協定参加企業には、気候変動税(環境税)の80%減税という優遇措置が実施されています。これに国民の理解が得られているのかは検討が必要だと感じました。
日本の経団連の「自主行動計画」と違い、順守しなければ減税措置の取り消しなど厳しいペナルティーがある。イギリスでは、目標達成できない企業は排出量を買って差を埋めることになります。
いまのところ、削減目標達成は間違いないとされ、いずれの国でも、ある企業、業界が達成できない場合は、経済界全体で協力して達成するだろうとみられています。
■環境税
ドイツでエコ(環境)税制を導入したのは、温室効果ガスという「外部コスト」を内部化するためということでした。税収は〇五年度で百八十億ユーロ(二兆八千八百億円)です。税金の分だけ、雇用者、被雇用者の社会保険料を引き下げたので、産業側と国民の負担は変わりませんでした。
税収の10%は、交通の改善、コジェネ(電気・熱併給システム)など環境対策に使用され、連邦政府収入が上がっています。エコ税制改革によって、CO2削減、エネルギー使用削減に2―3%分の効果があったほか、社会保険料の負担軽減に伴って二〇〇三年までに二十五万人の新規雇用があったとしていました。
またこれによって化石燃料の消費が、ドイツ連邦共和国成立以来、初めて減り、公共交通の利用者も共和国史上初めて増え、環境・自然保護・原子力安全省当局は、「効果は全体として肯定的」と評価していました。
イギリスでは二〇〇一年に気候変動税が導入され、エネルギーの支払いに10%上乗せするものになりました。この合意は二〇一三年までのものですが、政府はこれを一七年まで延長することを決めたということでした。
■排出量取引
どこでも議論の真っ最中だったのが排出量取引でした。これは、政府が企業ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、その枠を超えて排出した企業が、排出枠よりも少ない企業から余った枠を買い取ることで埋め合わせようという仕組みです。
欧州全体を対象にしたEU排出量取引制度(EU―ETS)は、発電所、石油精製、製鉄、石油化学などを対象に、約一万一千五百施設、EU内のCO2の49%をカバーしています。EUは二〇年に20%削減を目標に掲げ、半分は排出量取引でまかない、政府の収益の20%を再生可能エネルギーの活用・改善などに使用するとしています。
欧州委員会環境総局で、「炭素に価格をつけることで意識を変える意味がある」といっていたのが印象に残りました。
(3)「持続可能な発展戦略」のもとに温暖化対策を通じて社会のあり方を問い、再生可能エネルギーを活用しているかどうか
日本との違いの第三は、温暖化対策を通じて社会のあり方を変える取り組みになっているか、再生可能エネルギーの本格的活用に踏み出しているかどうかです。
EUでは、「持続可能な発展戦略」がすえられ、その最上位に気候変動対策がおかれています。二〇〇六年に採択された新戦略の中核は、「現在の持続不可能な消費と生産のパターンを、だんだんに変革していく」という新しい社会像をめざす取り組みです。
私たちは、あちこちで、「社会のあり方を変える」という視点ではどうかと聞きました。ドイツ連邦議会の環境・自然保護・原子力安全委員会副委員長で左翼党のエバ・ブリングシュレーター議員は、「利潤第一の考え方では温暖化はとめられない。社会システムの根本的変革が必要だ」と答えました。
フライブルク在住の環境問題研究家の今泉みね子さんからは、「ドイツの取り組みを見てきて、いろんな対策をとることは必要だが、結局のところ、もうけ本位の社会システムそのものを変えないと根本的には変わらないと感じている」という回答がありました。
■再生可能エネルギー
「持続可能な発展戦略」にとって、温室効果ガス削減の上でも自然エネルギー(再生可能エネルギー)の活用が重視されています。
ドイツでは、原発政策をやめ、風力・太陽光・バイオマスなどの活用に力をいれています。再生可能エネルギーは、すでに12%を占め、二十一万四千人の雇用の確保と年間一億トンのCO2削減効果、年間二百三十億ユーロ(約三兆七千億円)の売り上げです。
バイエルン州では、一九九〇―二〇〇七年までに一億八千万ユーロ(約二百九十億円)を研究や木質バイオマス暖房補助に拠出し、現在は州内のバイオガス施設が千三百五十カ所にのぼるということでした。バイオ燃料や木材チップなどの活用で、「三十年来衰退してきた農林業に希望が持てるようになった」と熱く語っていました。
■原発政策の位置づけ
エネルギー政策上の原発の位置づけについて、ドイツでは、社民政権以来掲げてきた脱原発の方針は、社民党・キリスト教民主党の大連立のもとでは、そのまま維持することになっています。
日本では「イギリスが原発推進に政策を転換した」とよくいわれますが、昨年のイギリスのエネルギー白書によれば、将来のエネルギー源別供給では、原発からの供給が今より増えないことを示しています。 (つづく)
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