2008年4月15日(火)「しんぶん赤旗」
空自いじめ自殺提訴
「おまえがなぜイラクへ」 暴言・暴行10年
国に賠償請求
イラク派兵から帰還後に自殺した航空自衛隊員=当時(29)=の両親が十四日、原因は隊内のいじめだとして国を相手取って一億一千万円余の損害賠償を求めて静岡地裁浜松支部に提訴しました。自殺したイラク帰還隊員の遺族が訴訟に踏み切ったのははじめて。
父親(65)は記者会見で「私も空自隊員だった。自分も勤めた職場を訴えることには今も悩んでいるが、なぜ息子が命をたたなければならなかったのかを自衛隊や国に問いたい」と訴え。母親(58)も「浜松にくれば息子に会えると思っている。今も死んだ現実を受けとめられない」と声をつまらせながら、「わが子のことだけ考えていてはいけない、と裁判に踏み切った」と語りました。
自殺したのは航空自衛隊浜松基地所属の三等空曹だったAさん。Aさんはイラク人道復興支援輸送隊の整備要員として二〇〇四年四月から七月までクウェートに派兵。帰国後の〇五年十一月十三日に浜松市内の自宅アパートで自殺しました。
訴状によるとAさんは一九九五年ころから十年間にわたって、配属先の先輩隊員、三等空曹(当時=現在二等空曹)から暴言、暴行など「日常的且つ継続的なパワーハラスメント」(訴状)を受けていたといいます。
二曹はイラク(クウェート)派遣の話が出てからは「なんでおまえがイラクへ行くのか」としっ責。出国、帰国をはさんで、外出禁止や休日出勤を強要し、たたく、けるなどの暴行と「死ね、辞めろ」などの暴言をエスカレートさせたといいます。
Aさんは身体的疲労と不眠、食欲不振、情緒不安定などからうつ状態になり、首つり自殺しました。
空自側は遺族の要請で内部調査をし、「(二曹の)職務権限を越えた行為などがあった」として停職五日の懲戒処分にしましたが、いじめについてはふれませんでした。
弁護団の塩沢忠和弁護士らは「二曹はいじめという故意の加害行為によってAさんを自殺に追いやった。中間管理職もいじめによる生命・身体の安全を害するおそれを知りながらまんぜんと放置してきた。安全配慮義務違反であり二曹と国は責任がある」と指摘しました。
息子の無念晴らす/人間性を無視
元隊員の父会見
いじめによる自殺で航空自衛隊員の息子を失った父親(九州在住)は14日、浜松市内の記者会見で胸中を語りました。
自分も航空自衛隊に三十三年間勤めただけに本当に悩んだ。今も悩んでいる。親類や周囲から反対された。
自衛隊員生活の中で自分は先輩からなぐる、けるなどされたことはない。なぜそんなことが必要なのか、自衛隊に問いたい。息子がなぜ自分の命を追いつめ、周囲はなにをしていたのか。
今もつらい毎日だ。子どもの無念をはらしたい。息子から電話や帰省のたびにつらい思いをしている訴えがあったし、嫁は本人から聞いたつらい思いを手紙に書き、何通も妻に送ってきていた。
息子の事件で所属する第一術科学校長、総務課長がきて先輩の隊員を処分したと報告したが謝罪はない。
自衛隊は指導熱心のあまりというが、あれは明らかにいじめだ。人間性を無視したいじめを絶対に許せない。
解説
海外派兵 心身むしばむ
自衛隊員の自殺は毎年百件をこえる高い水準が続いています。多くは原因が明らかにされないままです。その中で「いじめ」が原因とされるケースが少なくありません。今回の提訴では、いじめが原因で自殺したとして国家賠償訴訟で係争中の海自隊員遺族らが記者会見に同席、訴えました。共通しているのは上司が放置するばかりか、自衛隊ぐるみで隠ぺいをはかっていることです。
自衛隊元幹部は隊内でのいじめが目立ちだしたのは自衛隊が海外任務につくようになった時期と一致すると指摘します。
イラクやインド洋など海外派兵での配置や艦船が優先配備されるなかで、国内の残留部隊へのしわよせが強まる一方、「精強・効率」が指導方針にうたわれ、それまでの「存在する自衛隊」から「たたかう自衛隊」に変化、人権無視や上意下達の命令が幅をきかせるようになったといいます。
こうした中でパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントを容認する空気がまん延していると指摘されています。
イラク、インド洋派兵などアメリカの先制攻撃戦争に追従、地球規模での自衛隊の海外派兵が自衛隊員の心身をもむしばむ背景に目を向けないわけにいきません。(山本眞直)