2008年3月29日(土)「しんぶん赤旗」

主張

「集団自決」判決

軍強制否定のねらいは崩れた


 大阪地裁(深見敏正裁判長)は二十八日、太平洋戦争末期の沖縄戦での「集団自決」に日本軍が「深く関与」したと認める判決を、言い渡しました。

 裁判は、旧日本軍が住民に「集団自決」を命じたとする岩波新書『沖縄ノート』などの記述で名誉が傷つけられたとして、当時の戦隊長らが著者の大江健三郎さんと出版元の岩波書店を訴えていたものです。

 判決によって、元戦隊長らの訴えを理由に、高校教科書から日本軍の「命令」「強制」を削除させた政府・文部科学省の教科書検定も、誤りがうきぼりにされたことになります。

軍が「深くかかわった」

 沖縄戦では、座間味島で百七十八人、渡嘉敷島で三百六十八人の住民が集団死しており、いわゆる「集団自決」(強制集団死)の数の多さではこれらの島々が突出しています。

 判決は座間味島、渡嘉敷島の元戦隊長が住民に「集団自決」を命令したかどうかについては、「伝達経路等が判然としない」ことを理由に「ただちに真実であると断定はできない」としましたが、「集団自決」そのものについては「日本軍が深くかかわったもの」と認め、元戦隊長が関与したことは「十分に推認できる」と認めました。

 判決がその理由として、両島守備隊にとって貴重な手榴弾(しゅりゅうだん)を住民に渡したこと、日本軍が駐屯したところでしか「集団自決」が発生していないことなどをあげているのは、当時の沖縄県民の証言などとも一致しています。

 沖縄戦末期、両島の守備隊は補給路を断たれ、短機関銃と拳銃、軍刀、手榴弾が最大の武器でした。手榴弾は守備隊にとって死活的に重要な武器であったはずです。にもかかわらず、判決も認めるように、住民は手榴弾を使って「集団自決」しています。手榴弾は、守備隊が渡さなければ絶対に住民が手に入れることのできないものです。

 軍隊は指揮官の命令で動きます。兵隊が勝手に渡したなどという言い訳は通用しません。これ一つをとってみても、「軍官民共生共死」の沖縄守備軍の方針にもとづいて、元戦隊長らが「集団自決」を強制したことはあきらかです。判決が逆に、住民が補償ほしさに軍命令を主張したなどという原告の主張を退けたのは、原告らの主張に道理がないことを証明したことになります。

 元戦隊長らがおこしたこの裁判のねらいは、原告がつけた「沖縄集団自決冤罪(えんざい)訴訟」というタイトルでわかるように、日本軍の命令・強制を否定することにあります。南京事件では「大虐殺はなかった」、「従軍慰安婦」問題では「日本軍が強制した証拠はない」などといった、侵略戦争と日本軍の蛮行を正当化する動きと軌を一にしています。

 かつての誤りを再来させないためにも、歴史的事実の改ざんを許すわけにはいきません。

政府は誤りを認めよ

 原告敗訴の判決によって、改めて問われるのは政府・文部科学省の教科書検定です。

 文部科学省は昨年、この裁判をおこした原告の主張を理由にして、高校教科書から、日本軍が「集団自決」を命令・強制したとの文言を削除しました。

 原告の一方的な主張で築いた教科書検定に道理がなく、誤りであったことは明白です。政府は、日本軍による命令・強制を削除した高校教科書検定の誤りを認め、検定意見を撤回し、是正措置をとるべきです。



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