2008年3月24日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
南海地震に備える
高知県が条例
政府の地震調査委員会は土佐湾沖の南海トラフを震源とする南海地震が、今後三十年以内に50%程度の確率で発生すると予測しています。高知県は南海地震の被害を最小限にするために、南海地震に特化した「高知県南海地震による災害に強い地域社会づくり条例」をつくりました。特定地震の名を冠した地震条例は全国で初めてです。条例と地域の取り組みを紹介します。(高知県・窪田和教)
南海地震条例は、被害を最小限にとどめるために、県、市町村、県民、事業者、自主防災組織などの責任と役割を定めたものです。
知事の委嘱を受けた条例づくり検討委員会(会長=岡村眞高知大学理学部教授)が、二〇〇六年五月から十八回の会合を開くとともに、県民から意見を聞いたり、研究会を開きまとめました。二月県議会に尾崎正直知事が提案し全会一致で条例が成立しました。
同条例は、十一章、四十六条で構成しています。
県民が建物の補強や自らの判断で避難するなど、自らの命を守る「自助」の取り組みと地域の支え合いの「共助」が基軸。「自助・共助」を行政が積極的に支援する「公助」の取り組みを定めています。これらの取り組みを通じ地震への備えを生活の一部として習慣化することを目標にしています。
第一章の基本理念で「県民の生命、身体及び財産に係る権利が守られるように、県、市町村、県民、自主防災組織などがそれぞれの役割を基に、相互に連携して取り組む」と規定しています。
第二章から第五章までが、揺れ、津波、火災、土砂災害など具体的な災害事象ごとに役割と取るべき行動をあげています。
第三章の「津波から逃げる」は、▽居住者は、津波警報を待つことなく、自らの判断で避難する▽自主防災組織は避難計画をつくる▽県は市町村と連携し必要な情報提供と避難路・避難場所を確保するなど、役割を明確にしています。
六章から八章が、震災から命を救う取り組みと復興を書いています。
第九章は「人づくりと地域づくり・ネットワークづくり」。地域の防災力の強化、災害時要援護者への支援の規定とともに、知識の普及と人材育成をあげ、学校などでの防災教育を推進する、としています。
県は同条例に基づき、従来の施策を補強する形で年次計画を含めた「県南海地震対策行動計画」を一年間かけて作成。〇九年四月から「行動計画」をスタートさせます。
四万十町・興津地区では
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四万十町(しまんとちょう)興津地区(千百五人、五百七十五世帯)は、南に太平洋、三方は三百メートル程度の山に囲まれています。ほぼ全戸が海抜二―六メートルにあり、地区に通じる道路は、県道が一本だけ。南海地震の津波は、八―十二メートルと予想され、大きな被害とともに、地区の孤立も懸念されています。
同地区が、自主防災組織を結成したのは、二〇〇三年。船村覚会長(60)は「高知大学の岡村先生(理学部教授)を招いて学習会をしました。それまで、あまり関心を示さなかった人も、これは大変と考えだした」と話します。
岡村教授は、これまでたびたび同地区を訪れ、講演や避難訓練に参加しアドバスしています。
保育所を移転
岡村教授が適地とした、高台に避難広場が二カ所つくられています。最大波高十二メートルを想定し、十五メートルの高さを確保。誘導標識は、太陽光と風力発電で夜間停電時でも役割を果たすようになっています。地区の人が消費する三日間の水と食料、毛布の備蓄計画が〇八年度から始まります。
岡村教授が最も懸念したのが、海岸の近くで海抜三・一四メートルの所にある興津保育所。これも、〇九年度中に移転することになりました。
興津地区では、毎年避難訓練をしており、地区民の半数が自主的に参加しています。
小学生が地図
興津地区の取り組みのもう一つの特徴は、小学生が防災活動に参加していることです。
興津小学校は、総合学習の一環で、津波の避難場所や通路を写真や絵で示した防災マップ作りをしています。〇三年に最初に作られ、〇七年度に更新したマップが、全国の小学生を対象にした「第四回ぼうさい探検隊マップコンクール」で防災担当大臣賞を受賞。地区の防災意識を高める役割を果たしています。百本の電柱に、海抜を書いた標識を設置するユニークな取り組みもしています。
同地区の梶原政利町議(日本共産党)は「地域住民の防災意識の高まりが、行政を動かし一定の前進をつくりました。避難タワー建設や地区に通じる道路の確保など課題は多いが、住民意識の高揚を図りながら、具体的施策を進めるよう努力したい」と話しています。
地域で防災文化を
岡村眞高知大教授
南海地震は、発生が予測できる世界でも数少ない地震です。そういう意味で、「備えることができる」地震です。
まず、百秒の揺れに耐える、そして三十分後に襲ってくる津波から身を守る、この二つのために自分は、地域は、日ごろから何をしたらよいか考え、行動することが重要です。そこのことを条例に強く書き込みました。
一九四六年の昭和南海地震の経験で、次回の地震を考えるのは間違いです。数倍の規模になるでしょう。地震の発生する時間が、大潮、満潮時と重なると、津波は二メートル高くなります。最悪を想定した備えが必要です。
二〇〇六年のインドネシア・ジャワ島沖地震は、津波が映像として残っており、視覚的に津波をとらえることができます。八十センチの津波でも、がれきが街中を走り、すごい破壊力を見せています。この地震から教訓を学ぶことが大事です。
津波に強い、人・地域づくりのカギは、「ここで、元気で生きていく」と思う人がどれだけいるか、ということだと考えています。せっかくつくった避難広場を百年に一度しか使わないのはだめです。そこで避難訓練をする、春にはお花見をする。防災と地域のコミュニティーが一つになった「防災文化」が根付くことで災害に強い町になります。
南海地震
紀伊半島の熊野灘から土佐湾沖を震源とする巨大地震。ユーラシアプレートと、その下に沈み込むフィリピン海プレートの限界で発生します。これまで、ほぼ100年から150年ごとに発生しています。前回の南海地震は1946年に発生。比較的規模が小さかったことから、エネルギーがまだ残っていると考えられており、次回は100年を待たずに発生する危険性が指摘されています。
次の南海地震はマグニチュード8・4(前回地震の約4倍)と県は予想しています。
高知県全域で、震度5強から6強の揺れが100秒間続きます。また、東西713キロの海岸線が弓型に太平洋に向かって広がっている地形から、沿岸部全域で6―8メートル、高い所は10メートルを超える津波がおきます。
県は死傷者2万400人、全・半壊建物は16万7000棟と想定。死者数9600人のうち津波によるものが7割、建物倒壊が2割と予測しています。