2008年3月17日(月)「しんぶん赤旗」
仏政府が職場自殺対策
ストレスを全国調査
【パリ=山田芳進】仏政府が職場における自殺対策に乗り出すことになりました。ベルトラン労働相が十二日の記者会見で明らかにしたもので、職場におけるストレスについての全国調査を行い、来年初旬に発表される結果に基づき、自殺に関する疫学的観察を行うというものです。
この日、労働相に提出された専門家による報告書は、フランスには労働者の精神衛生状態と労働条件を同時に観察する指針が存在しないことを指摘。その上で、指針の作成、職場における自殺のケースの収集とその心理学的分析などの実施を推奨しています。
ベルトラン氏は、「労働は自己発現の源泉であると同時に、苦悩の原因にもなりうる」と述べ、報告書の推奨する措置を、労使と相談しながら実行していくと述べました。
一方、経済紙トリビューンによると、自動車大手ルノーの研究施設で、二月末に労働者が自殺したことが、十一日分かりました。パリ郊外にある自動車コンセプトやデザインなどを研究する同社の中心的研究施設であるテクノセンターでは、二〇〇六年から〇七年にかけて三人の労働者が自殺しています。
今回自殺した労働者は、同施設でルノーに情報システムを供給する会社の社員で、組合によると、この社員は「疲労困ぱい」していたといいます。
施設内の労働安全委員会の求めで調査機関が一月に行ったアンケートは、同施設の三分の一の労働者が常に「過剰な緊張」の中で働いているとしています。これはエンジニアや管理職の全国平均である10%を大きく上回っており、多くの社員が会社の要求にこたえるために、過剰な量の仕事を強いられていると結論付けていました。
ルノーでは、三人の社員の自殺を受け、研究所内の労働条件改善に取り組み、この日新たに就任した人事部長が、同施設の労働条件は「改善している」と述べましたが、今回の自殺の件については、自社の社員のことではないとしてコメントを避けました。
疫学 エピデミオロジー(英語)の訳語。社会や特定の人間集団の中での病気の発生や広がりなどの状況を調査し、それにどのような要因が働いているかを分析、病気の予防や健康の増進に役立てようとする学問分野です。人間だけでなく、家畜などの病気にも適用されることがあります。十九世紀半ばの英国でコレラが汚染された水による経口感染であることをつきとめたジョン・スノー(一八一三―一八五八)の調査・防疫活動が起源だとされます。