2008年3月6日(木)「しんぶん赤旗」

主張

薬害エイズ

国と製薬会社が負う重い責任


 薬害エイズ事件で、エイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱血液製剤から感染する危険性を知りながら、回収などの指示を怠ったとして業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長に対し、「責任を免れない」と上告を棄却した最高裁判所の決定が明らかになりました。

 被告の元課長は禁固一年、執行猶予二年の有罪判決が確定しました。製薬会社のトップと専門の医師、厚生官僚が被告になった一連の薬害エイズ裁判は、これですべて終結することになります。

政官業の癒着のなかで

 最高裁の決定は被告にたいし、当時の厚生省で感染対策の中心的な立場にあり、薬害防止を遂行すべき責任があったことを指摘して、最高裁としてはじめて、官僚が必要な措置を怠ったことによる「不作為」の刑事責任を認めました。最高裁決定が、行政機構全体の責任をきびしく問うていることは明らかです。

 一連の薬害エイズ事件の裁判では、非加熱血液製剤を輸入・製造・販売した製薬会社トップへの業務上過失致死罪での実刑判決がすでに確定、非加熱血液製剤の使用にお墨付きを与え、自らも使用していた医師も訴えられましたが公判中になくなりました。今回の元官僚への有罪確定で、薬害エイズをもたらした製薬会社と政府・厚生省の責任があらためて明らかになったのは明白です。

 エイズ(後天性免疫不全症候群)は時には死に至る病気で、HIVは血液を介して感染します。熱に弱く、血液製剤を加熱して使用すれば、HIVに感染しエイズを発症する危険は防ぐことができました。

 このことは少なくとも一九八三年には分かっていたのに、日本では製薬会社が安全だとうそをついて販売を続け、厚生省も非加熱血液製剤の販売中止や回収の処置をとりませんでした。このため、世界でも日本だけが八四年以降も非加熱血液製剤を使い続け、多くの感染者を生むことになったのです。製薬会社と政府の責任は重大です。

 裁判では企業のトップや元官僚の直接の責任が問われましたが、もともとは、製薬行政をめぐる政官業医の癒着を浮き彫りにした事件です。

 血液製剤を販売した製薬会社のトップには厚生省から天下りしていました。製薬会社は自民党に政治献金し、厚生省の官僚への働きかけも期待します。製薬会社は厚生省に大きな影響を持つ専門医師にも巨額の資金を提供していました。事実、厚生省は非加熱血液製剤の製造・販売を認め続けました。

 今回の事件では政治家や官僚の贈収賄事件にまでは至りませんでしたが、国の薬事行政そのものが、製薬会社の利益を優先し、国民の生命と安全をないがしろにしていたのです。ことを裁判で有罪が確定した範囲にとどめず、癒着の構造そのものに徹底したメスを入れることこそ、薬害防止に不可欠です。

薬害の根を断ってこそ

 裁判と並行して行われた国と被害者の交渉でも和解が成立し、東京・霞が関の厚生労働省(旧厚生省)には、悲惨な薬害を繰り返さないことを誓う「誓いの碑」が建てられました。製薬会社も一昨年、みずから再発防止の報告書をまとめました。

 薬害エイズ事件と相前後して薬害C型肝炎が表面化し、患者らの粘り強いたたかいで解決に向け大きく前進したように、薬害を許さない国民の世論と運動は前進しています。政官業の癒着の根を断ち、薬害被害を根絶するうえで、国と製薬会社の責任はいよいよ重大です。


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