2008年3月3日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

URの削減に揺れる

団地はいま


 都市再生機構(UR)が昨年末に打ち出した住宅削減計画が波紋を広げています。計画が実行された場合の問題点を先取りしたような、東京都日野市の多摩平団地からの報告と解説で考えます。


東京・日野 多摩平にみる

敷地の6割を譲渡・売却

急な開発で公共施設不足

地図

 東京の郊外、日野市の多摩平団地は、敷地面積約三十ヘクタール、総戸数約二千八百戸で一九五七年から建設されました。その後九七年に総戸数四千四百戸とする建て替え工事が着手されました。

 建て替えにあたって、住民・日野市・旧公団の三者協議会が設けられ、緑を残した建て替えなどを実践、市の「まちづくりの見本」として市民にも評価されてきました。

 しかし、二〇〇四年七月、都市基盤整備公団が独立行政法人・都市再生機構(UR)になり、もともとの居住者が住んでいた団地の建て替え住宅にもどる「もどり入居」分だけを建設したら、後は自治体や民間などに敷地を譲渡・売却するという方針転換が行われました。

 多摩平団地では、敷地の約六割、約十七・六ヘクタールが譲渡・売却されることになります。さらに、現在の独立行政法人を民営化する動きが強まる中、URの用地をできるだけ高く、早く売ろうという動きが強まっています。しかし、急激な開発は人口の急増をもたらし、公共施設の不足を招きます。

◆    ◆

 多摩平団地では、約二千三百戸の民間開発が予定されています。近隣のマンションと同じような世帯構成になると仮定した日本共産党市議団の試算では、就学前の子が約千百人、小学生が約四百人、中学生が約百人増える見込みです。保育園や幼稚園はもちろん、入居後五、六年すると小学生は一千人近くに増え、学校も不足します。

 日野市は、いま子ども人口推計を見直し、子育て施設や学校施設の見直しを迫られています。

 新たに必要となる保育園や幼稚園、学校の用地確保や建設費は、自治体にとって大きな負担です。特にすでに開発された地域で新たな用地を確保することは大変困難です。

 宅地開発を行う場合、日野市では、事業者に開発戸数に応じた公共公益施設用地や建設費の負担を求める「まちづくり指導要綱」があります。たとえば、開発戸数一千戸では小学校一校、二千戸では、中学校一校と定めています。

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 建て替え当初、旧公団は「指導要綱を尊重し、公共公益施設の経費負担に対応する」「生徒数の増加については事業スケジュールの調整を図り、学校収容能力の範囲内で施設整備に影響のでないよう検討する」と約束していました(影響が出ないようにするには十年以上の期間が必要です)。

 しかし、これらの約束は、用地をできるだけ高く、早く売るという国の方針と相いれないため、市との協議は行き詰まっています。

 URは、いままでの多摩平団地の建て替えで、緑の継承と育成、環境共生、子育て環境の支援など、「もうけ優先」の民間事業者ではできない「まちづくりの見本」となる建て替えを進めてきました。さらにいま、子育て世帯や高齢者世帯のセーフティーネットとしての役割もまちづくりに求められています。それらの役割を投げ捨てて、乱開発の穴埋めの資金回収優先で用地売却を図ることなど、到底許されません。(清水とし子市議)


解説

「住宅は人権」の政策を

 おもに一九六〇年代に供給された鉄筋コンクリート造りでダイニングキッチン、水洗トイレなどを備えた当時としては、近代的な住生活を送っていた人々を羨望(せんぼう)の意味もこめて、「団地族」と呼んでいました。

 大都市に大量に建設・供給された公的な集合住宅(公営、都市再生機構、公社住宅)は、現在三百二十万戸に達しています。

 しかしこの団地にいま、大きな変化が生まれています。都市再生機構は昨年末の独立行政法人の整理合理化による再編方針を明らかにしました。当面十年で五万戸を削減し、跡地を民間企業などに売却、最終的には現在の七十七万戸を五十万戸程度にスリム化するというものです。

 建築後長期間を経て建て替え対象になっていた団地もそれが見直され、売却対象になるなど、居住者の戸惑いは隠せません。

 この再編方針にもとづく住宅削減・売却の実施は居住者との話し合いぬきで都市機構が一方的、強権的に決めたものです。

 一方、住宅に困っている低所得者を対象に住宅を供給することを目的とした公営住宅も入居申し込み可能な者の収入の上限を大幅に引き下げるとともに、現在の入居者約30%の家賃を値上げする公営住宅法の施行令改定をおこないました。

 国土交通省の方針は、少しでも収入の増加した人々を事実上追い出して、大都市では数十倍(東京都は三十二倍)に達している応募倍率を引き下げるとしています。しかしその根拠は明らかではありません。

 この一連の公共住宅政策は、所得格差が進行し、年収二百万円以下の勤労者が一千万人を超え、“ネットカフェ難民”といわれる“住宅なし層”が増加しているなか、低廉な家賃の公共住宅を求める人びとの願いに真っ向から反するものです。

 UR賃貸住宅も新規建設はおこなわず、もっぱら超高層オフィスやマンション建設の「都市再生」の実行部隊として大企業の支援をおこない、民営化を含めた組織見直しが検討されています。公営住宅も、建設管理に対する地方自治体への国の補助制度が地方住宅交付金制度に改変されたため、東京都や大阪府などの大都市では新規建設ゼロが数年にわたって続いています。

 政府は「住宅困窮者へのセーフティーネット(安全網)で安全・安心を保障する」などといいますが、ネット(網)に大穴が空いているといえます。

 “住宅は人権”という立場で、住み続けることができ、住宅に困っている人々が入居可能な住宅政策、団地再生が求められています。(党国民運動委員会・高瀬康正)


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