2008年2月25日(月)「しんぶん赤旗」
主張
政府の温暖化対策
原発「切り札」論は危険
政府、電力業界は、原子力が二酸化炭素をださない「クリーンなエネルギー」だとして、温暖化対策の「切り札」にしようとしています。
政府の原子力委員会が二月に公表した報告(案)も、温暖化対策に原子力の利用拡大が不可欠とし、京都議定書の第一約束期間(二〇〇八―一二年)後の国際的枠組みのなかで、原子力の利用を明確に位置づけるべきだとしています。原発事故とそれによる環境破壊を無視した大変危険な主張です。
放射能による環境破壊
温暖化対策として原発利用を拡大することは、国際的にも通用しない無責任なものです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第四次報告は、原発には「安全性、核兵器拡散、核廃棄物の問題」があるとして、くぎを刺しました。欧州八カ国環境相の共同声明も、原発には安全面でのリスクがあるとし、「(温暖化対策の)有効な選択肢にはならない」と断じています。
一九八六年のチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)では、深刻な放射能汚染が国境を越えて広域に広がりました。安全性の未確立な原発が、こうした事故を繰り返さない保障はありません。また、原発が排出する放射性廃棄物も、処理・処分方法が未確立であり、数万年にわたって地球上に滞留することになります。
なかでも日本の原発は、運転開始から平均で二十二年以上たつなど老朽化しています。中越沖地震(新潟県)でも明らかになったように原発の耐震安全性が揺らいでいます。政府のいう温暖化対策として原発の稼働率を引きあげ酷使すれば重大事故がいっそう起こりやすくなります。
にもかかわらず、日本政府が原発を「切り札」だとするのは、原子力業界が、原発の利用拡大に固執し、アジア諸国などへの原発輸出をもねらっているからです。特定業界の利益のために原発の危険に目をふさぎ、しかも、それを世界に拡大するというのは言語道断です。
原子力委員会は、他国の温暖化ガス削減に協力した場合に、その一定量を自国の削減量に充当できる仕組みの対象に、原発を含めるべきだとしています。しかし、こうした国際的仕組みにおいて原発が対象外であることは、国際的に決着済みの問題です。日本政府の主張は、通用するものではありません。
また、こうした原発頼みのとりくみでは、本来の温暖化対策をないがしろにすることになります。日本の二酸化炭素排出量の三割は電力部門が出しています。これを削減するという口実で、原発の大増設や、その稼働率の引き上げなど、原発依存をいっそう強めるなら、自然エネルギーの利用など、必要な温暖化対策が遅れるのは明白です。
自然エネルギーの拡大を
温暖化対策で求められるのはこうした方向ではなく、企業との間で温暖化ガス削減協定を結ぶことや、エネルギー税制を見直し環境税を導入すること、自然エネルギーの利用拡大に本格的に取り組むことです。
ドイツは、温暖化ガスを一九九〇年比で二割近く削減しました。原発によるエネルギーを減らし、自然エネルギーを電力生産量の4%から12%に増やすなかで達成したものです。EU(欧州連合)は、二〇二〇年までにエネルギー需要を二割減らすとともに、自然エネルギーの比率を二割に高め、温暖化ガスの排出を二割削減することを目標に取り組んでいます。日本もこうした経験に学ぶべきです。