2008年2月24日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 労働者派遣法

派遣法を労働者保護法に

日本の未来かかっている

共感よぶ共産党改正提案


 「こんな働き方を許していたら、日本社会の未来はない」。日本共産党の志位和夫委員長が、派遣労働の実態を示し、労働者派遣法の改正を迫った国会質問(8日)は、大きな共感をよび、今国会で派遣法を改正しようとの機運が高まっています。労働者派遣法のどこが問題で、どう改正すればいいのか。日本共産党国会議員団の改正提案(2007年12月17日発表)を紹介します。


厳しく制限

「日雇い」禁止・常用型を基本に

写真

(写真)パネルを示して福田首相に質問する志位和夫委員長=8日、衆院予算委

 「日雇い派遣は好ましくない」「非正規雇用が増加、固定することは、注意が必要」「中長期的にみた場合、そういう雇用は好ましくない」

 志位委員長の質問に福田康夫首相はこう答弁せざるをえませんでした。

 派遣法の導入(一九八六年)と原則自由化(九九年)、製造業への解禁(二〇〇三年)による非正規雇用の増大は「底が抜けた」といわれる貧困の拡大をもたらしています。なぜでしょうか。

 雇用は、労働者を働かせる企業が直接、常時雇用することが原則です。建設現場などに人を送り込み、賃金をピンはねする労働者供給事業は禁止されていました。

 ところが派遣法は、一定の条件のもとに、この間接雇用を認めてしまいました。当初は十六業種に限って実施されました。それが次々に拡大され、いまでは建設や港湾、警備における業務を除いて全業種に拡大しました。

 登録型派遣とは、派遣会社に氏名を登録し、派遣先が決まったときだけ、派遣会社と雇用関係を結ぶというものです。その最たるものが日雇い派遣です。仕事があったときだけ、一日区切りで契約を結びます。

 もともと派遣先が払う料金は、人件費削減のために低くなっています。そのうえに30%から40%を派遣会社が手数料としてピンはねしています。さらに、派遣会社の事業所は五万一千に急増。契約をとるために条件引き下げ競争をやっています。こうして派遣労働者の賃金は、低くなる一方です。

 この結果、雇用は一日区切り、賃金は日給で六千円から七千円、派遣先でも人間扱いされない労働が広がりました。

 政府は、不十分な日雇い派遣指針を出しただけで、今国会での派遣法改正を見送ろうとしています。

 共産党の提案は、派遣法の持つ問題点を是正し労働者保護法にしようというものです。

 「雇用の原則は直接・常時雇用であり、間接雇用である労働者派遣は、臨時的・一時的業務に制限します。常用型派遣を基本とし、登録型派遣は例外としてきびしく規制します」

 働く貧困の根っこを断つ提案です。

代替にしない

期間こえたら正社員に

 労働者派遣は、直接・常用という雇用の原則を崩すものだと当初から指摘されてきました。このため、労働者派遣は、常用雇用の代替のおそれのないと考えられる臨時的・一時的なものに限るとされています。このことを保障する措置として、派遣の受け入れ期間(現行最長三年)を超えて労働者を働かせる場合、派遣先企業は直接雇用を申し込む義務があります。

 ところがキヤノンは総要員の三分の一が派遣・請負です。正社員から派遣・請負への置き換えを大規模にやってきました。しかも、雇用申し込み義務を免れるために実際は派遣労働でありながら、請負を装って働かせていました。この偽装請負はキヤノンだけでなく、多くの企業に広がっています。

 「(キヤノンの)実態がどうなっているか、厚生労働省に確認させたい」。福田首相の志位委員長への答弁です。企業にとって派遣法はじめ現行法を守ることは最低限の社会的責任です。キヤノンは、直接雇用を拡大し、正社員化比率を高める方針を固めたと伝えられています。抜本的是正策が求められています。

 しかし、常用雇用の代替にしないための措置は、申し込み義務のみでは不十分です。派遣労働者を直接雇用にしても最大二年十一カ月の短期契約にして雇い止め(事実上の解雇)をする脱法行為を防げないからです。

 日本共産党の提案は、こう述べています。

 「派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合、派遣先が直接雇用したものとみなし、派遣労働者を正社員にします」

 期間の定めのある雇用期間も現行の三年から一年にもどすことも提起しています。

均等待遇を

放置できない低賃金

 派遣労働者は、職場では正規労働者と同じ仕事をしながら、賃金は半分から三分の一という低賃金です。呼ばれるのは「ハケンさん」。名前ではありません。

 派遣社員にとって働く先は「お客さま」です。女性がセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けて、雇われている派遣会社の上司に相談したら、「相手はお客だから」といわれた例もあります。

 「同じ仕事をしている同じ労働者なのに、派遣というだけで、生活もできない低賃金に置かれ、人格さえ否定される。口惜しくてならない」。派遣労働者の告発です。

 この放置は一刻も許されません。共産党の提案は「同一労働同一賃金の原則をつらぬく」。正規社員との均等待遇の実現を掲げています。ヨーロッパでは当たり前の原則です。年次有給休暇の保障やセクシュアルハラスメントについて禁止し、告発・是正する権利を派遣労働者に保障します。


提案のポイント

 (1)労働者派遣法を「派遣労働者保護法」に抜本的に改める。

 (2)派遣労働者の雇用と収入を安定させるために、労働者派遣は、臨時的一時的業務に制限。派遣元に常時雇用される常用型を基本にし、仕事があるときのみに雇用される登録型は例外としてきびしく規制する。

 (3)日雇い、スポット派遣はただちに禁止する。

 (4)派遣期間の上限は一年にする。

 (5)派遣期間の一年を超えた場合、派遣先が直接雇用したものとみなし、派遣先での正社員化を実現する。

 (6)派遣を理由とする差別を禁止し、派遣労働者に均等待遇を実現する。

 (7)派遣労働者の賃金を確保するために、派遣元のマージン率(派遣手数料)の上限を規制する。

 (8)派遣元・派遣先企業の責任を強化する。

 (9)違法行為にたいする労働者の申告権を保障し、告発・是正を求めたことを理由とする不利益扱いを禁止する。


 日本共産党は各界を訪ね、「労働者派遣法改正要求」の内容を紹介し、懇談しています。各界の反応は…。

「歓迎」「今チャンス」 現場の声

 日本青年団協議会・渋谷隆事務局長 日雇い派遣の実態はおかしい。規制緩和の結果が今の状況を生み出している。規制して、あるべき姿にする必要がある。

 日弁連・藤田美津夫副会長 問題は十分認識しており、関心をもっている。

 全労連・宮垣忠事務局次長 労働者派遣法の見直しが一番大事な課題になっている。法改正に向けて議員要請に力を入れていきたい。

 JMIU・生熊茂実委員長 07年春闘から、労働者保護法が必要だといってきた。日本共産党の法改正要求は、同じ方向であり、心から歓迎したい。みなし雇用規定をかかげているのは、私たちのたたかいの経験からみても重要だ。ぜひ立法化をお願いしたい。

 自由法曹団・鷲見賢一郎弁護士 日本共産党の法改正要求は、タイムリーな時期にだされた。適切な提起がたくさんある。労働者派遣法の抜本改正に正面からとりくまなければならない。共同していきたい。

 全労協・中岡基明事務局長 ワーキングプアの典型が派遣と請負だ。歯止めをかけなければならない。いまがチャンスだと思う。国会内外のたたかいが必要だ。

 首都圏青年ユニオン・河添誠書記長 ことしが派遣規制の大事な年になる。労働者保護の立場で、運動の一致点を広げて、がんばりたい。

 派遣ユニオン・関根秀一郎書記長 労働者派遣法改正の世論と運動をつくるうえで、日本共産党が法改正要求をいち早く発表した。国会内で力を尽くしてほしい。


「今国会で実現」 広がる世論

 厚労省は今国会での労働者派遣法の改正を見送りましたが、与野党を問わず政党や労働組合、市民団体などの間で「今国会で改正を」との世論と運動が広がっています。

 日本共産党、民主党、社民党、国民新党の代表らと、全労連や連合などに加盟する労働組合などが一堂に会して、労働者派遣法の抜本改正をめざすシンポジウムが昨年から三回開かれています。

 各党の代表とも「日雇い派遣は禁止を」「均等待遇の実現」と主張。一致点が広がっています。

 民主党は、派遣対象を原則自由化した九九年の派遣法改悪に社民党とともに賛成しました(当時は旧民主党と自由党)。しかし、国民世論の高まりを受けて、日雇い派遣禁止などを盛り込んだ改正案を今国会に提出することを表明しています。

 自民党や公明党も見直しをいわざるをえなくなっており、公明党の太田昭宏代表は、日雇い派遣を禁止する派遣法の改正案を今国会に提出したい考えを表明しています。

 一九八五年に制定された派遣法が九九年に原則自由化されたとき、これに反対した政党は日本共産党だけでした。日本共産党はその時、労働者派遣法を「派遣労働者保護法」に改める改正案を発表し、登録型派遣の禁止などを打ち出しました。

 それが今では、改悪に賛成した政党も含めて、登録型派遣の禁止などで一致点が広がりつつあることは大きな変化です。「日本共産党の主張とみんなが一致してきている」と語る記者もいます。

 しかし、具体的な改正内容については、「登録型派遣は残すべきだ」として不安定雇用を温存する動きなど逆流も出てきています。財界は逆に規制緩和を求めており、これからのたたかいが焦点になっています。



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