2008年2月20日(水)「しんぶん赤旗」

裂かれた「父子船」
通報遅れ救助支障

イージス艦衝突


「せがれの成長」口癖

親類「早く2人返して」

 もくもくと漁をする父。後を継ごうという息子。親子の営みをのせた全長十二メートルの漁船は、自衛艦に引き裂かれました。千葉県房総半島沖で十九日未明に起きた海上自衛隊イージス艦衝突事故。冬の海に投げ出された二人。「早く助けたい」。仲間の船も加わっての捜索は続きました。


 「『せがれが一人前になるまでは、自分も頑張る』が治夫さんの口癖だった」と語るのは漁師仲間の男性(56)。

 吉清哲大さん(23)は、水産高校を出て漁師の後を継ぎました。父の治夫さん(58)は脳こうそくを患いながら、息子のためにか、エンジンなど船の設備を更新しました。

 漁師の男性は、地元の中学校で治夫さんより一学年下。「(治夫さんは)働きもん。横着する人じゃねぇ。後継ぎができてうれしかったろう」と言葉を詰まらせました。

 漁師の男性は、朝六時ごろイセエビの網掛けに出たら、船が一斉に戻ってきました。「事故の予感がした」といいます。

 治夫さんの自宅近くで酒屋を営んでいた女性は「(哲大は)小さいときから憶病で優しい子だ」と振り返ります。「哲大に『母ちゃんの体が悪いからあんたが頑張れ』といったら『分かった』と答えた」といいます。

 「男二人の船。息子が継いでくれたら、親はどれほどうれしいか…。これからだったのに」と悔やみました。

 「早く(水から)上がってくれ」。治夫さんのおばさんは自宅前でいら立ちました。報道のカメラに、「自衛隊は、治夫と哲大を生かして返してほしい。もう胸が張り裂けそうです」と訴えました。

 自宅から出てきた身内の男性は「最新鋭のイージス艦でしょう。監視もいて。なにをやってんだ…」と言い放ちました。

 二人の安否を気遣う漁協の男性職員(49)は「治夫さんは漁師歴の長い人だし、哲大さんは勉強熱心で人柄もよかった。今年は釣れてなかったのでどんな道具を使ったらマグロが釣れるのか、漁師が集まると話を聞いて勉強していた」と話します。(遠藤寿人)

清徳丸の航行灯みた

船団船長ら自衛隊批判

 十九日夕、捜索から同じ船団の七人の船長が川津港に帰港。捜索では吉清治夫さんが愛用するシルバーのジャンパーやふとんが見つかっただけで、同日午後六時二十五分からの記者会見では一様にいら立ちと疲れ切った表情を見せました。

 市原義次さんの金平丸は、事故が発生した時間帯に正面から近づいてきたイージス艦と思われる船に回避行動を取りました。「最初はこちらが右にかじをきったが『ああ、(イージス艦)は曲がらないな』とこちらが左に曲がった。走っている感覚とレーダーでは、イージス艦はまっすぐだった。減速はしなかった」と証言します。

 相手の船の航行灯が赤色を認識した場合、その船が回避行動をとらなければいけません。事故当時、清徳丸が左舷位置を示す赤色の航行灯が見えなかったと主張する自衛隊にたいし、康栄丸の中ノ谷義敬さんは、「(照灯、航行灯、船尾灯の)四つ全部がついているのを見た。見た人は何人もいる」と断言しました。

さらに「漁師は航海灯をつけないってことはない。それがつかない時は回転灯をつけてでもやる。漁師は神経とんがらかせて走っている」といい、「自分たち漁船のレーダーに映っていた、軍艦のレーダーなら確実に映っていたはずだ」とのべ「見張りが不十分」と自衛隊を批判しました。

 市原さんが現場に駆けつけると清徳丸が真っ二つに分かれて流れていました。市原さんは「ブリッジの中に人がいるかもしれない」と、自衛隊に訴えましたが「捜索内容は教えられない」との理由で拒否されました。

 新勝浦市漁協の外記栄太郎組合長は「ミサイルを打ち落とす近代船が小さな漁船を事故にあわせた。自衛隊に文句をいいたい。今の自衛隊はたるんでいる」と訴えました。(矢野昌弘)

レーダーあってなぜ見逃すのか

漁協関係者ら

 十九日午前四時すぎに起きた海上自衛隊イージス艦との衝突事故にあった漁船「清徳丸」が所属する新勝浦市漁業協同組合の川津支所(勝浦市)では同日、二人の行方不明者の安否を気づかう兄弟や親せき、同組合長など多くの漁協関係者が駆けつけ、捜索に全力をあげていました。

 清徳丸に乗り組んでいた吉清哲大さん(23)のいとこ、吉清紘之さんは「とにかく早く安否を知りたい。ただただ無事を祈っている」と語りました。

 漁協の田中昭二さん(78)は「(イージス艦は)立派なレーダーを持っているのに小型船も見逃すようではとんでもない。見張りを立てていたのか」と話し、同川津支所の荘司好延船団長は「支所からもたくさん漁船を出して事故現場を捜索している。イージス艦はフル装備なのになぜ衝突したのか、理解できない。自衛隊は許せない」と語気を強めました。

 外記(げき)栄太郎同漁協組合長(79)は「船が真っ二つということは軍艦のへさきが横っ腹にぶつかったということだ。防衛省には捜索している漁船にも現場状況がわかるようにしてほしいとお願いした」とのべました。(洞口昇幸)

日本共産党漁港に急行

関係者見舞う

 日本共産党の小倉忠平、斉藤和子の衆院南関東比例の両候補は十九日、イージス艦衝突事故の一報を受けて、千葉県勝浦市の新勝浦市漁業協同組合の川津支所事務所に急行し、児安利之党市議とともに漁協関係者を見舞い、要望などを聞きました。

 外記(げき)栄太郎同漁協組合長(79)は「軍艦に小さな漁船が引き裂かれた。行方不明になっている二人の乗組員を何としても見つけたい」と語りました。

 安否を気遣う漁協関係者と話したあと、小倉氏は「米軍との演習を終えたイージス艦が大惨事を起こしました。自衛隊や政府は一刻も早く乗組員を発見するためにあらゆる手段を尽くすべきです。組合長さんも、関係者のみなさんも捜索活動に力を注いでいます。米軍との軍事強化の作戦のなかで起こったことも重大です」とのべました。

回避できたはずだ

 「気のゆるみでしかない」。海上自衛隊で教官を務めてきた元海自幹部が、衝突事故発生のニュースを聞き、まっさきに口にした言葉です。漁船の親子二人が行方不明という深刻な事態を引き起こした海上自衛隊の責任は「気のゆるみ」ではすみません。

 この事故は、二〇〇六年十一月二十一日に宮崎県日南沖で海自潜水艦「あさしお」が引き起こした、パナマ船籍タンカーとの衝突事故と共通しています。「あさしお」は最新鋭のエンジンを装備、改造後のテスト航海で、海上を航行中のタンカーを確認せず、浮上させて衝突しました。

 「あたご」も昨年三月に就航した最新鋭のイージス艦です。昨年十一月に舞鶴港を出航、アメリカのハワイでミサイル発射などの認証を米海軍から受けるためでした。事故はその帰国直前で発生しました。

 日南沖、房総沖ともに漁船や外航船などの船舶が活発に往来する海域です。当然、万全な安全確認が要求されます。「あさしお」の事故では船舶の接近確認を誤認した艦長を補佐すべき哨戒長(二尉)がなにも進言しませんでした。

 「あたご」を操縦する艦橋(ブリッジ)や戦闘指揮所には艦長はじめ当直士官、見張人や伝令要員やレーダーマンなどが二十四時間体制で配置についています。事故は要員交代時間(午前四時)と重なる四時七分頃となっています。

 右舷船優先の原則から、艦長席もブリッジの右側にあります。交通の要衝である浦賀水道に接近しており、艦長も艦長席についているのが一般的です。元教官は「交代時にきちっと清徳丸について当直士官や他の要員に申し送りがやられていたのか。漁船など小さな目標だからとして伝えられていなかった可能性もあり、そうだとすれば海自の責任は免れない」と強調します。

 護衛艦は、高性能レーダーなどで進行方向や周辺海域の船舶や確認物を数十キロ先から捕そくできます。相手船などを図面に落し、アルファ(A)、ブラボー(B)、チャーリー(C)などと印をつけてそれぞれの位置、進行方向、速度を測定。「あたご」との交差予測時間や位置を確認し、回避義務がある場合には方向変更、減速の許可を艦長に求め確認して航海します。

 「清徳丸」の存在も当然把握されており、交代時にきちっと申し送りされていれば回避できたはずです。それが出来ていなかったとすれば、今回も「連携ミス」という極めて初歩的な人為ミスがあったといえます。

 海自の元教官は言います。「海外派兵やミサイル防衛、ハイテク装備が優先されるが、肝心の足元がゆらいでいる、守るべき国民を犠牲にするいまの自衛隊のあり方は根本から考えなおすべきだ」(山本眞直)


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