2008年2月7日(木)「しんぶん赤旗」

どう見る 農地政策見直し

利用権の自由化ねらう


 政府は「品目横断対策」に続く農政「改革」の柱として農地政策の見直しを進めています。昨年秋「農地政策の展開方向」という「改革」案を農水省が発表し、新たな制度を二〇〇八年度中ないし〇九年度をメドに発足できるよう農地法などの「改正」をめざすといいます。「改革」案について、農地の行政機関である農業委員会組織でも議論が進められています。「改革」案の主な論点と問題点を見てみます。


 見直しの中心は、耕作困難な農地の有効利用を図るとして、農地の所有権は「厳しい規制」を維持するが、利用権(貸借)は自由化する、というところにあります。

 現行の農地法は、農地を所有したり、利用できるのは、みずから耕作に従事する者かその共同組織(農業生産法人)に限定しています(耕作者主義)。都会の資産家や株式会社一般は、耕作する保障がないために認められてきませんでした。

 この原則は、戦後の農業の発展や農村社会の安定の基盤となり、農外資本による無秩序な転用や投機を防ぐ決定的な役割を果たしてきました。

財界の要求

 しかし株式会社の農地取得の自由化をねらう財界から、その撤廃要求が執拗(しつよう)に持ち出され、さまざまな抜け道がつくられてきました。〇五年には、“地域の農業者だけでは耕作放棄地の解消が困難な地域”で、市町村と協定を結ぶことを条件に、利用権に限って株式会社一般でも参入が認められました。

 今回は、利用権についての限定条件を取り払い、農地はだれもが自由に借りられるようにしよう、というのです。これで都会の資産家や農外企業が優良農地を借りて、人を雇って農業を営むことも可能になります。そうした経営には耕作を続ける「制度的な保障」はなく、耕作したとしても、地域の農業者との間で農地の競合が起こり、多様な家族経営で成り立ってきた地域農業に重大な混乱と困難が持ち込まれるでしょう。

所有権まで

 さらに重大なのは、利用権の自由化が所有権の規制緩和に連動することです。所有権と利用権を切り離し、所有権だけを「厳しく規制」することの法制度上の困難さや、同じ農業法人経営で、一方には所有権まで認め、他方には利用権しか認めないことの不合理から、財界などが所有権の自由化要求をしてくるのは必至だからです。

 農地の所有権の取得を認められない農業経営の一般化は、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進」するという農地法第一条にも矛盾します。この点からも、農地の利用権の自由化が、耕作者主義の原則を空洞化させ、農地法そのものの解体に行き着きかねません。

農民の要求とかけ離れ

 農水省の農地制度「改革」案は、「所有から利用への転換」をはかり、「担い手の選択肢を拡大する観点から長期の賃貸借が可能となるよう、標準小作料制度等は廃止の方向で見直す」としています。

標準小作料

 標準小作料は地域における農地の賃貸借契約の目安として農業委員会が定めているものです。借地経営が会員の多くを占める全国稲作経営者会議の調査でも、会員の75%が標準小作料を参考にしていると回答しており、貸し手、借り手双方にとってもこの制度が安心して賃貸借契約を結ぶ条件となっています。

 農水省は賃貸借を安定させるためには「長期間の賃貸借」「二十年を超える制度」の検討が必要といいだしました。同省が二〇〇六年九月に全国百六十七の農業法人に行った調査でも、賃貸期間二十年以上を望む法人はわずか4・8%でしかなく、六年未満が27・2%でした。「二十年超える」との提案が農業の現場から出たものでないことは明らかです。

財界の圧力

 「改革」案はまた、きめ細やかな対策で「五年後をメドに耕作放棄地の解消」や、優良農地の維持・確保のため「農用地区域からの農地の除外を厳格化し、病院・学校等の公共転用についても許可の対象にする」などと言及しています。

 そこには農地を維持し、有効利用する上で必要な対策もありますが、今日の農地荒廃の根本にあるのは、農産物の輸入拡大や価格暴落を野放しにして農業経営を成り立たなくしてきた政府の農政です。耕作放棄地の解消や担い手の確保をいうなら、なによりも価格・所得保障など大多数の農家経営が成り立つ農政の確立こそが第一です。

 そうした対策にはまったくふれずに農地政策の見直しで解決できるかのようにいうのは、みずからの責任を農業の現場に転嫁する議論です。ましてそれを口実に戦後の農地制度の原則まで投げ捨てるのは許されません。

 政府の進める農地政策の見直しは、農村の現場からの要請というより、財界などの強い圧力を背景にしたものといわなければなりません。

(国民運動委員会 橋本正一)


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