2008年2月4日(月)「しんぶん赤旗」
若手研究者の就職難
シンポ発言から (上)
二日に開かれた「若手研究者の就職難と劣悪な待遇の解決のための公開シンポジウム」のパネリストの報告(要約)を報告順に紹介します。吉田裕氏(一橋大学大学院社会学研究科教授)、石井郁子氏(衆院議員、日本共産党副委員長)の報告は(下)で紹介します。
当事者が声をあげて
NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表理事
榎木英介さん
このような機会をいただきありがとうございます。NPO法人サイエンス・コミュニケーションは、知識を持った人たちが生かされる社会をつくりたいということで活動している団体です。
今日、お話ししたいのはポスドク問題です。博士号を取得した後に、三年とか数年の短期雇用で、研究をする人のことです。終身雇用につながっているわけではなく、大学で教員を募集すると百人、二百人の応募がくるほど、就職先が少ないですから、多くの人が将来に不安を感じている状況です。
こんななかでポスドクの人たちの高齢化が進んでいます。最近、四十歳になったが、来月で任期が切れる、どうしようと相談を受けたのですが、ポスドク全体で四十歳以上の人が十人に一人いて、年々増えているという状況です。ポスドクの人たちは年金未加入の人が多く、深刻です。
私は、当事者がもっと声をあげていかなければならないと考えています。一人ひとりばらばらではだめなので、ポスドクネットワークをつくり、広く社会の人々に支持されるなかで解決していきたいと思うのです。
ポスドクは使い捨て
元産業技術総合研究所主任研究官
岡田安正さん
筑波研究学園都市では独立行政法人化以後、ポスドクが激増し、研究機関にとって不可欠な存在となっています。任期後、研究者を断念する人もいます。筑波大学では、助手(助教)ポストがなくなり、後継者問題が深刻になっています。
当事者との懇談で「プロジェクト参加中は職務専念義務があるために、科研費などに応募できない」「任期中は、退職金の年数に入らない」などの実情が出されました。
政府の科学技術総合計画のもとで、競争的資金が増える一方、運営費交付金が削減され経常研究はできなくなっています。計画そのものが「若手研究者の使い捨て」という負の遺産を生み出しています。研究がポスドク頼みでは、長期的視野の研究ができず、日本の未来はありません。
実情把握の必要性を訴えたい。文部科学省の調査では、就職者のなかにポスドクが含まれ、問題の深刻さが薄められています。収入が月にゼロ―数万円で研究を続けている「支援なしポスドク」の数もわからない。大学の指導教官に報告させて統計をとるべきです。
研究の発展のために
日本物理学会キャリア支援センター長(愛知大学教授)
坂東昌子さん
かつては大学院といえば研究者の養成機関だったが、大学院の設置基準が変わって、多様な専門職へ進むべきであるという政策的な圧力もあって大学院生を増やしました。しかし、財政的な保証や進路のことなど、後のことを考えていなかった。ポスドク一万人計画は重要だが、増えたオーバードクターへの対応とみられても仕方がありません。
現在、以前の助手層がポスドクに入れ替わっていて、研究者の約三分の一はポスドクなど不安定雇用で成り立っています。彼らなしに研究の発展はありえない。ポスドク問題は物理学会全体の問題です。
ポスドクの状況はつかみにくくて、任期が切れた人は学会もやめてしまうし、海外にいるポスドクも増えています。
現在、応用分野は広がっている一方で、基礎分野の人員が減らされています。しかし応用ばかりしていては応用はできないようになると思います。基礎を充実させて学問のルネサンスを起こし、底力をつけていこう、と呼びかけたい。