2008年1月23日(水)「しんぶん赤旗」
主張
原爆症新基準案
被爆者の全面救済実現を
原爆症の認定基準をめぐって、厚生労働省は認定の判断にあたる被爆者医療分科会に新基準の構想「新しい審査のイメージ(案)」を示し、新基準づくりが実際に始まりました。
新基準の構想は、これまで批判されてきた現行の認定基準の根幹である「原因確率による審査を全面的に改め、迅速かつ積極的に認定を行う」としています。
解決へ一歩踏み出させた
広島・長崎に原爆が投下されてから今年で六十三年目です。被爆者はいま高齢化と、原爆被爆が原因としか考えられない、がんをはじめとしたさまざまな病気とたたかっています。集団訴訟の原告のなかにも、解決を見ることなく亡くなる人が増えています。
被爆者が「私の病気は原爆が原因だと認めてほしい」と原爆症の認定申請をしても却下が相次ぎました。現在、原爆症に認定されているのは、「被爆者健康手帳」をもつ約二十五万人のうち二千人ほどです。爆発後一分以内の初期放射線被爆だけを認定の判断材料にし、放射線降下物や残留放射線などの影響をほとんど無視した「原因確率」による審査の方針に固執してきたからです。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)や原爆症認定を求めてたたかっている集団訴訟の原告・弁護団、日本共産党をはじめ各党も「原因確率」による審査方針の廃止を求め、またこれまでのすべての判決がこの機械的適用を厳しく批判してきました。今回の新基準の構想が「原因確率」による審査を全面的に改めるとしたことは当然です。日本被団協や弁護団も“問題解決への一歩を踏み出した”と評価しています。
厚労省は被爆者医療分科会で三月までに新基準をまとめあげ、来年度から運用するとしており、いま重要な局面を迎えています。日本被団協や弁護団は「評価できる」としながらも、新しい基準案は原告全員救済などの要求とは隔たりがあるとしています。
▽爆心地からの距離が三・五キロメートル前後で被爆▽百時間以内に被爆地付近に入った▽百時間後でも一週間程度滞在▽がん、白血病、副甲状腺機能亢進(こうしん)症、放射線白内障などが発症―などを原爆症と認定することを原則としているからです。被爆距離を「三・五キロ」と線引きされたり、疾病が限定され、裁判で認められた原告さえ認定されない危険があります。“個別審査で総合的に判断する”とした認定基準も明らかにされていません。
五年前に第一陣が国・厚労省を相手に提訴して以来、六回連続して国側が敗訴している集団訴訟では、被爆状況や被爆直後の行動、急性症状、今日に至る健康・疾病状態を全体的・総合的に判断し、遠距離被爆者や入市被爆者も原爆症と認定するよう命じています。新しい認定基準はこうした判決を踏まえるべきです。
何より被爆実態に沿って
厚労省側は二十一日の被爆者医療分科会で、「これまでの認定結果にいろんな批判があり、私たちもある程度踏み出さざるを得なくなった」とのべました。
日本被団協と原告などは、国・厚労省にたいし、いまこそ被爆者援護の精神に立ち、被爆の実態を直視し、被爆者の実情に即して救済する新しい基準をつくりあげるため協議を求めています。
すべての原告を救済する認定制度になるかどうか、いま政府・与党の姿勢が問われています。認定制度の抜本的改正と訴訟の解決に向け、ひきつづく世論と運動が重要です。