2008年1月5日(土)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

激動に怯(おび)えるか立ち向かうか


 二十一世紀の八年目を迎え、各新聞の社説を一読しました。

 「しんぶん赤旗」は元日付の主張で、新年を「新しい政治に向けた、たしかな前進の年に」と呼びかけましたが、各紙の社説に共通するのは、おしなべて現状への悲観論です。「今年もまた、穏やかならぬ年明け」(「朝日」)、「世界の構造的変動のただ中にいる」(「読売」)、「世界を覆う霧は今も深い」(「毎日」)などです。「産経」は社説(主張)ではなく論説委員長の署名入りの論文ですが、より直截(ちょくせつ)に「“危機の20年”へ備えと覚悟」を求めています。

現状肯定の立場

 もちろん、これらの社説に見られる“危機意識”が、アメリカ一極支配の揺らぎや、日本での自公政治のいっそうの行き詰まりなど、現実政治を反映している側面があるのは否定できないでしょう。年初から本格化するアメリカの大統領選挙で共和党の敗北が確実視され、日本でも昨年の参院選での与党の敗北に続き年内には総選挙も予想されるなど、世界でも日本でも時代が激動しているのは明らかです。

 しかし、各紙の社説に悲観論が漂うのは、そうした激動する時代の前進面に目が向かず、否定的な見方に落ち込んでしまっているからです。それは多かれ少なかれ、これらの新聞が現状を肯定する立場にとらわれているためでもあります。

 たとえば、「唯一の超大国」として君臨してきたアメリカ一極支配の揺らぎは、どの国にとっても一国だけでは世界が思うように動かせない時代がきたということであり、各国が自主的に、平和のために力を合わせる条件が広がったことを示すものです。ところが、「多極化世界への変動に備えよ」と題した「読売」社説では、アメリカにかわって台頭する中国やロシアに警戒感をむき出しにしており、それに備えるには日米同盟をさらに強化すべきだというものになってしまいます。その立場は、日米の軍事同盟を不動の前提として、日米関係からしか世界を見ない、最悪の現状肯定主義です。この点では、最優先の「覚悟の国家戦略」は「対米関係の構築」だという「産経」論説委員長の論文も、同じ立場です。

 一方、「歴史に刻む総選挙の年に」と題した「朝日」の社説が、衆参の「ねじれ」国会による政治の「混迷」を憂えるのも、結局はここ数年この新聞が肩入れしてきた、自民か民主かという「二大政党」の発想を一歩も出ないからです。そのため社説の結論は、総選挙の結果自民が勝とうが民主が勝とうが、「敗者は潔く勝者に協力する」などという、昨年失敗した自・民の「大連立」とも共通する、翼賛政治のすすめともなっています。

 衆参の「ねじれ」は、各党とも否定できない、国民の利益になる法案は通るが、国民の利益に反する、与党の勝手な法案は通らないというだけで、国民にとって「混迷」でも何でもありません。しかも、国民が求める政治を実現するためには、アメリカいいなり、大企業中心の自民党政治を根本から変えるしかないということがいよいよ明らかになっています。新聞も「二大政党」の枠内での発想にいつまでもとらわれているようでは、ますますこうした国民の政治に対する願いにこたえきれなくなることを、自覚すべきです。

批判精神の衰え

 マスメディア時評を書き続けてきて、ここ数年、日本の新聞から、現状批判の精神がますます弱まっていることに危惧(きぐ)を覚えます。「真実を伝える」という点でも、「権力を監視する」という点でも、日本の新聞はますますジャーナリズムらしさを失っています。

 その代表的な姿が、今年の年頭にあたっての各紙の社説ではないでしょうか。憲法や靖国神社参拝といったテーマを除けば、各紙の主張する中身がますます似たり寄ったりのものになっているのも、気になるところです。たとえば福田内閣になって急浮上している「社会保障財源」を口実にした消費税の増税では、昨年末「朝日」が増税を求める社説を掲げ、今年の元日付の社説では「読売」も消費税増税を主張するといった具合です。

 新聞は長らく社会の変化を敏感に写し取り、時代を先取りして警鐘を鳴らす「木鐸(ぼくたく)」が役目だといわれてきました。その新聞の社説が、時代の激動に立ち向かうのではなく、現状肯定の立場から怯(おび)えてしまっているというのでは嘆かわしい限りです。

 「読売」や「朝日」など全国紙のように、世界と日本を広く論じているわけではありませんが、ブロック紙や県紙のなかにことしも、「反貧困たすけあいネットワーク」の活動を取り上げてこうした運動のなかから「『反貧困』に希望が見える」と論じた「東京」や、小泉政権以来の「構造改革」路線について「国民の暮らし、特に地方の暮らしを苦しい状況に追い込む結果を招いた」と批判する「信濃毎日」のような、良質な社説が見られることがせめてもの救いです。(宮坂一男)


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