2008年1月5日(土)「しんぶん赤旗」

列島変える息吹

喜ばれるアニメ作りたい

無権利なくし労働基準法適用へあと一歩

東映動画労組


 「アニメ大国」や「ジャパニメーション」といわれ世界的に注目されている日本のアニメーション。四千人とも五千人ともいわれるアニメーターなどアニメ労働者が、労働基準法も適用されない個人事業主として働かされていることは知られていません。そんななか、東映アニメーションのアニメ契約者は、労働者性を勝ちとりつつあり、あと一歩で労基法上の諸権利を認めさせるところまできています。(伊藤悠希)


 アニメ「プリキュア」「ワンピース」などで有名な東映アニメーションで「原画」を描いている里子さん(30)はアニメーターになって十年。一日に描けるカットはせいぜい二、三カットです。締め切りに追われ、毎日十時間働いています。「初めてテレビにスタッフとして名前が出たときは録画をして、家族に報告しました。自分のかかわったアニメが形になって世の中に出たのがうれしかった」

 会社はアニメーターを「契約者」という名の個人請負扱いにし、「机を貸しているだけ」と公言して労働基準法を適用してきませんでした。そのため、就業規則もなく、いくら働いても残業代はありません。

月収20万円

 里子さんの月給は、基本給が約十六万円。先月は出来高分を合わせてようやく二十万円を超えました。

 東映アニメーションで外注が始まったのは三十年前ごろから。仕事量が増えたのがきっかけでしたが、人件費削減のため今では海外下請けを含め、その95%が外注化されています。同時に、社内の人員不足を補うため、さまざまな無権利の契約者を入れてきました。

 里子さんは「アニメーターになった友達は体を悪くしたり、経済的な理由で辞めてしまい、私だけ続けています。将来はあまり考えないようにしていますが、このまま続けていけるか悩んでしまいます」と語ります。

 日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の調べによると、アニメーターの労働時間は一日十時間、一カ月二百五十時間に及んでいます。(「芸能実演家・スタッフの活動と生活実態/アニメーター編」・二〇〇五年版)

 一カ月の賃金を推算すると、「動画」で約九万四千円、「原画」で約十八万七千円。「動画」の場合は時給にすると約三百七十四円で、東京都の最低賃金(七百三十九円)の半額程度です。

 不安定な雇用形態をなんとかしようと、東映アニメーションでは東映動画労働組合(全労連・映演労連・全東映労連加盟)が以前から契約者に呼びかけてたたかってきました。出来高払いだった賃金に基本給を導入させ、一時金などを実現。アニメーターや演出以外の契約者には残業代も一部支給させるなど少しずつ労働条件を前進させてきました。

 東映アニメーションが株式公開した翌年の〇一年、税務署が「契約者は労働実態から給与所得者である」と修正申告を迫りました。会社は「映画界は労基法を適用したら会社が維持できない」として、一部の労働者だけを給与所得者とし、ほかの契約者は出来高払いだけにしようと計画。不安が広がり、契約者が相次いで組合に加入しました。

給与所得に

 東映動画労組はすべての契約者を労働者として扱い、給与所得者とすることを求めました。全東映労連や映演労連の応援を受け、裁判の準備を進めていくと、会社はすべての契約者百五十四人を給与所得者として扱うことを表明。契約者は入社一年目から厚生年金や社会保険に加入することができるようになりました。

 会社は契約社員制度の導入を提案。退職金制度の設立を含めて組合と協議が始まっています。

 東映動画労組の井手武生委員長(45)は「生活保障といい作品をつくることは一体の問題です。東映アニメの例は業界では特異な例にとどまっています」と話します。

 将来に希望が持てず、半年で半数、一年で七―八割の人が辞めていくともいわれています。日本のアニメは九割部分が人件費の安い海外で制作されており、アニメーターとして成長する基礎である「動画」を描ける環境が失われつつあります。

 映演労連の高橋邦夫委員長は「アニメーターとして育つには時間がかかります。労働条件の改善なしには、人材が定着しません。日本の下請けをしていた韓国は日本の技術を学び、国の支援を受けて発展しています。日本も支援に力を入れるべきです」と話します。

 映演労連などは「アニメ産業改革の提言」(〇六年)を発表しました。アニメーター育成のシステムや、最低賃金並みの動画・原画単価の最低基準の設定などを求めています。

 労働組合以外でも、アニメの制作環境の改善をめざした「日本アニメーター・演出協会(JAniCA=ジャニカ)」が設立され活動を始めています。

 一度会社員になったものの、あきらめきれず、再挑戦して東映アニメーションでアニメーターとして働く麻子さん(36)は言います。「ここまで頑張ってこれたのは経済面での保障があったから。せめて、東映アニメーションの待遇が業界全体で当たり前になってほしい。お客さんに喜ばれるアニメをつくり続けたい」


 原画と動画 原画は、キャラクターの基本的な動きを表す絵。動画は、原画が指示した動きがスムーズな動きになるよう原画と原画の間をつなぐ絵。

 三十分のテレビ番組で使用する原画数は三百カット。動画は三千五百枚です。



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