2007年12月28日(金)「しんぶん赤旗」

多くの患者 切り捨てに

水俣病 与党の救済策に批判

「最高裁判決を無視」


 一時金百五十万円、療養手当月額一万円を支給する―。与党プロジェクトチーム(与党PT)が打ち出した水俣病救済策について、水俣病の患者団体らは「患者を大量に切り捨てるもの」として断固拒否を表明しました。与党案の問題点と患者団体が望む解決案はなにか、をみてみました。(熊本県・西田純夫)


 水俣病救済については、二〇〇四年の最高裁判決という司法判断がすでにあります。

 この判決では、加害者の国・熊本県と加害企業・チッソの法的責任を明確にしたうえで、賠償一時金は、患者の症状などによって、四百五十万円から八百五十万円を補償するというものです。

 これにたいする与党PT案は、加害責任に触れずに、一時金百五十万円、療養手当月額一万円の支給などを中心としています。

金額を減らす

 最高裁判決を大幅に下回る与党PT案について「何の根拠もない」と批判するのは、ノーモア・ミナマタ国賠訴訟の園田昭人弁護団長。

 「一九九五年の『政治解決』では一時金は二百六十万円だった。平たくいうと、『あのとき手をあげなかったから、今回金額を下げてもいい』という考え方です。最高裁判決は頭の中にまったくない」と指摘します。

 もともと与党PT案は、費用負担を求められるチッソが応じなければ成立しません。ところが、与党PTの園田博之座長は、チッソの態度表明を前に、受け入れを表明している団体との非公開の会談で「申請者数を二万人、救済費用を二百億円」と発言したと報道されています。

 一人百五十万円で単純計算すると申請者の66・7%しか救済されません。療養手当などを計算に入れると、申請者の半分以下しか救済されません。予算に合わせた患者の大量切り捨てを前提としているものなのです。

逃げるチッソ

 与党案には、申請期間に期限をもうけるほか、「公的診察が必要」としています。国や県が選んだ医療機関が、患者の症状を判断するというのです。

 園田団長は「交通事故で加害者に診断してもらうことはない。国・県は加害者。その加害者が被害者を診断するのはおかしな話」と批判します。

 公害をなくす熊本県民会議医師団事務局長で、医師の高岡滋氏は、国の「審査」が、「医学的根拠のない判断条件を基準とし、診断プロセスも不明確。国に任せていたら、水俣病の診断はできない」と指摘します。

 費用を負担すべきチッソは、与党PT案の受け入れを拒否しました。与党PT案は根拠のないものであることがますます明確になりました。

 被害者らは「チッソは被害者のことを二の次にして利益優先。責任逃れは許されない」と訴えています。

全面解決求め

 被害者がどれだけいるかもわからないのが、公式発見から半世紀以上もたった水俣病の現状です。水俣病の全容も明らかになっていません。

 約千五百人の原告となっている水俣病不知火患者会(大石利生会長)のノーモア・ミナマタ訴訟にくわえ、水俣病被害者互助会(佐藤英樹会長)も裁判を起こしました。

 大石会長は「救済を求める被害者は今後も出てくる。不知火海沿岸全住民の健康調査なしには、本当の意味での水俣病問題の全面解決はない」と訴え、期限を設定しない恒久的な救済策の必要性を強調しました。

 被害者は「国・県、チッソの法的責任にもとづく解決」「司法基準による賠償、医療費の無料化、療養手当」を実現する司法救済システムを求めています。


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