2007年12月13日(木)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症認定検討会

被爆者の叫びをなぜ聞かない


 原爆症認定制度のあり方を議論している厚生労働省の検討会(座長=金沢一郎・日本学術会議会長)が十日、現行の審査基準を維持し、残留放射線や内部被ばくなどを加味する「まとめ案」を提示しました。

 集団訴訟の原告をはじめ被爆者や被爆者団体、支援者らの訴えを踏みにじるものです。全国から「被爆者の切り捨てに利用されてきたやり方が正しかったと追認するための検討会としか思えない」などの批判と怒りが起こっています。

判決を無視する厚労省

 集団訴訟に立ち上がった全国の被爆者・原告(二十二都道府県の二百九十七人、十五地裁・六高裁=三日現在)は、すさまじい社会的な偏見や差別にさいなまれながらも、原爆症に認定されることを求めてきました。「原告となることを決意したのは、あのときに死んだ家族や友人らに『自分たちの無念を代弁してほしい』と背中を押された気がする」という被爆者も少なくありませんでした。

 被爆者らの願いは、ただ「私たちの病気は原爆が原因だと認めてほしい」「被爆者は私たちを最後にしてほしい」というものです。がんなどの重い病気と高齢の体を押して法廷に立つ被爆者の姿とその証言・意見陳述は聞く者の胸に迫りました。

 集団訴訟は四年前の二〇〇三年四―九月、第一陣が国・厚労省を相手取って各地で提訴しました。以来、近畿訴訟から広島、名古屋、仙台、東京、熊本の各訴訟と六回連続して厚労省が敗訴しています。それ以前の長崎・松谷訴訟(三回)、京都・小西訴訟(二回)、東京・東訴訟(二回)を含めると十三連敗となります。

 これまでの集団訴訟の各判決は、現行の審査基準である厚労省の「認定審査の方針」をことごとく論破、否定しています。現行の基準は爆発一分以内の初期放射線だけを対象にした「DS86」という被ばく線量推定方式を絶対視し、疾病ごとに被ばく線量による発症確率を割り出した「原因確率」にあてはめて機械的に判断するやり方です。判決は、被爆状況や被爆直後の行動、急性症状、今日に至る健康・疾病状態を全体的・総合的に判断し、遠距離被爆者や入市被爆者も原爆症と認定すべきだとし、被爆者らを勇気づけました。

 厚労省の検討会は、相次ぐ敗訴を受けて「見直し」の検討を始めたものですが、「まとめ案」は残留放射線や内部被ばくを加味し、急性症状についても個別に考慮するとしたものの、現行基準の柱である「原因確率」は維持しています。司法の流れを完全に無視し、被爆者の気持ちを否定するものであり、受け入れるわけにはいきません。厚労省は、裁判で六たび批判された従来の「認定審査の方針」に固執せず、被爆者の訴えに沿った新たな認定基準に一刻も早く抜本的に改めることです。

国の責任で抜本改正を

 「被爆者援護法」には、原爆による被害は原子爆弾を投下した結果生じた放射能に起因する健康被害であり、「他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ(る)」(前文)とあります。

 唯一の被爆国である日本政府は、世界に向かって核兵器廃絶と原爆被害の実相をアピールしつづける責任があります。政府は、この趣旨と目的、司法の判断、そして何よりも被爆者が命をかけて訴えてきた叫びに真剣に耳を傾けるべきです。


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