2007年11月15日(木)「しんぶん赤旗」
主張
産科・救急
なぜ対策がとられないのか
少子化社会といわれる中でも毎年百万人をこえる新生児が誕生しています。ところが妊娠した女性が安心して出産するための体制が危機的状態にあります。新しい子どもの命と女性の命を守るために、いますぐ緊急の対策と医療のあり方の大本を見直す抜本策が求められています。
緊急事態に対応できず
救急車が患者の搬送先が見つからず死産したり、妊婦が死亡するなどの痛ましい事故が後を絶ちません。
十月末に総務省消防庁・厚生労働省が発表した初の妊婦救急搬送実態調査でも事態の深刻さがしめされています。照会一回で92%が搬送されている一方、照会五回以上が二百二十件、うち十回以上四十五件、現場滞在時間も六十分以上九十分未満八十四件、九十分以上二十一件など緊急事態に対応できていません。なかには照会二十七回、滞在時間二百十七分の事例も含まれています。受け入れ困難の理由は96%が処置困難、患者に対応中、医師不足など、多くが医療体制の問題です。(〇六年度)
事態の根底にあるのは世界でも異常な医師不足です。日本の医師数は人口十万人あたり二百人、OECD(経済協力開発機構)加盟三十カ国平均の三百十人を大きく下回り、二十七位です。各国が医師養成をすすめるなか二〇二〇年には最下位になる恐れも指摘されています。八〇年代以降「行政改革」の名のもとに「医療費適正化」をかかげて医師抑制政策をとり続けてきたためです。
なかでも産科医は一九九四年から二〇〇四年の十年間に7%減少しています。二十四時間体制を必要とする産科では医師不足が過酷な勤務実態をうみ、また医師不足をうむという悪循環をひろげてきたことが要因です。仕事と子育ての両立が困難で、退職せざるをえない女性医師も少なくありません。
個々の病院ではチーム医療体制で子育て中の女性医師の短時間勤務時間を保障し、残業・当直を免除するなど、独自の努力が始まっています。こうした努力を促進するためにも労働条件の改善と抜本的な診療報酬引き上げをおこなう必要があります。
また、国・自治体が国公立病院の統廃合を促進したことが、地域から産科を奪ってきました。産婦人科のある病院は一九九六年から二〇〇五年に28・7%も減少していますが、なかでも国立病院産婦人科の減少は35%と突出しています。統廃合をやめ、住民の要求に応え産婦人科を復活させることです。医師抑制政策を転換し、勤務時間・当直回数の規制・当直明けの休みの保障、女性医師の産休・育児休業取得の保障、夜間・病児保育所の設置などを前提に医師確保に計画的にとりくむべきです。
出産事故訴訟の対応として、客観的に原因を究明する第三者機関、無過失補償制度の創設も必要です。
救急体制の改善は直ちに
福田康夫首相は所信表明演説で小児科や産婦人科の「救急医療の充実」を明らかにしました。どのように促進するのかが問われています。救急体制の改善は一刻の猶予もできません。産科の在宅輪番制、救急車へのドクターの配置(ドクターカー)、広範囲搬送情報システムなど、あらゆる手立てを積極的にとる必要があります。さらに病院と助産院の連携、助産師外来や院内助産などをおこなう病院への助成、出産を前後する時期(周産期)医療の拠点の確保などただちにおこなうことです。
安心して出産できる条件の整備を、国と自治体の責任ですすめることがもとめられています。