2007年11月11日(日)「しんぶん赤旗」

主張

生活保護見直し

「削減ありき」は許されない


 厚生労働省が、社会援護局長のもとに「生活扶助基準に関する検討会」を設け、生活保護の基準についての見直しを始めています。年内に報告書をまとめ、来年度予算に反映させる計画です。

 ねらいは生活保護の基準の引き下げで、関係者から不安と、中止を求める声が上がっています。

低所得世帯は一段と苦境

 検討会では、これまで一般勤労世帯との比較で算定されてきた生活保護の基準を、低所得世帯の消費水準とのバランスによる方法に改定しようとしています。地域ごとに支給額に差をつけていた「級地制度」や「勤労控除」も見直すとしています。

 生活保護は、国が定めた最低生活費(生活保護基準)よりも収入が少ない場合、国がその差額を支給する制度です。現在、最低生活費は一般勤労世帯の七割弱程度の水準でしかなく、保護世帯は一般家庭よりも相当に制約された生活を強いられています。この基準さえ低所得世帯よりも「やや高め」にあるとして引き下げれば、いまでも苦しい最低生活を、さらに切り詰めることになります。

 もともと政府は生活保護の削減のために、「骨太方針2006」で(1)生活扶助基準の見直し、(2)母子加算の廃止、(3)級地の見直し、(4)持ち家を担保にするリバースモーゲージ制度の導入―という四つの検討課題を掲げ、〇七年度には母子加算の縮小・廃止とリバースモーゲージ導入を強行しました。今回、残された基準そのものの見直しに着手したのです。

 すでに老齢加算・母子加算の廃止・縮小や多人数世帯の基準額の削減などにより、「食事の回数を二回に減らした」「子どもに人並みの衣料や食事が与えられなくなった」など、深刻な事態が進んでいます。このうえ基準を引き下げれば、生活保護世帯の生存権は奪われかねません。

 いま働いても生活保護基準以下の収入しか得られていないワーキングプア世帯は、四百五十万世帯とも六百万世帯ともいわれており、生活保護世帯の五倍以上にもおよびます。こうした世帯は本来、生活保護の活用が可能ですが、基準の引き下げは、この人たちを制度から締め出すことにもなります。低所得者にとっての最後のセーフティーネットに大きな穴をあける基準の引き下げは、絶対に許されることではありません。

 もともと生活保護制度は、国民の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法二五条)を国が保障するためのものです。この間強行された老齢加算・母子加算の削減・廃止が何をもたらしているのかを把握し、加算を復活すること、ワーキングプアの人たちに「健康で文化的な生活」をいかにして保障するのかなど、制度充実の課題は山とあります。

 厚労省が「検討する」というのなら、憲法や生活保護法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」とはどのような水準なのか、現行の基準が人間らしく生きるためにふさわしいのかをこそ審議すべきです。

国民全体に重大な影響

 生活保護基準は、最低賃金や課税最低限の算定基準、国保料(税)の減免や公営住宅家賃の減免基準、就学援助の適用基準や公立高校の授業料免除など、低所得者対策のさまざまな指標にもなっています。基準の引き下げは、保護世帯だけではなく、国民生活全体の水準を引き下げるものであり、影響は重大です。

 基準引き下げ「先にありき」とばかりに、年末までのわずかな期間で結論を引き出すことは、到底容認できません。


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