2007年11月4日(日)「しんぶん赤旗」

07年 政治考

首相と小沢氏「大連立」密室協議

列島あぜん

「民意はどこにいっちゃったの」


 「びっくりです。国民の目の届かないところで話し合うというのはいい感じがしない」(川崎市の女性会社員・三十一歳)―。福田康夫首相(自民党総裁)と小沢一郎民主党代表二人だけの党首会談(二日)で明らかになった唐突な「大連立」協議の話し合いに国民はあぜん、怒りの声をあげています。


 名古屋市内で三日開かれた「憲法九条を守ろう県民のつどい」に参加した男性(26)=法律事務所勤務=は「選挙のときには自民党とは違うんだといって、選挙で勝ったのに結局一緒になるとすれば、いっそうひどい政治不信を招くだけだ」。三日放映のTBS系番組「サタデーずばッと」で司会のみのもんた氏は「われわれ国民、清き一票をもっている国民は、いったいどこにいっちゃったのかな。民意はどうなるのかなとすごく心配です」と会談そのものに疑問を投げかけました。

 インターネット上のアンケートでは自民・民主の連立政権協議に83%が反対で、賛成の14%を大きく上回りました(ヤフーニュース・意識調査)。

審判に逆らう

 ここまで怒りをよぶのはなぜか。福田・小沢会談は、参院選挙で下された「自公政治ノー」の国民の審判にまったく逆らうものだからです。

 政府・与党は、参院での与野党逆転を受け、国会会期末を今週十日に控えても一本も法案を成立させられず、海上自衛隊の給油活動も撤収に追い込まれました。そこで福田首相は「政策を実現するための新しい体制をつくるべきではないか」と小沢氏に打診する策に出ました。

 小沢氏はその場できっぱり反対しなかったばかりか、政府の判断次第でいつでも自衛隊の海外派兵を可能にする派兵恒久法の「立法作業」を条件に、海自の給油活動再開の新テロ特措法案に賛成する考えを示したといわれます。

 民主党は、民意で生まれた参院での与野党逆転を受け、与党との「対決」姿勢を強調してきました。

 「公約違反だ。民主党は参院選で自民党を批判して、密談もやらないといっていたのに」(神奈川県の男性会社員・五十歳)、「連立打診するほど、自民党が弱くなっちゃった。党首会談も国民が納得できる説明があればやってもいいと思うけど、まだ説明が足りないし」(千葉県市川市の公務員・三十一歳)…。本紙が三日、東京・新宿駅東口で市民に聞くと、こんな声が次々返ってきました。今回浮かび上がったのは、「自分たちの所見をのべることを捨てて、談合政治に引き込んでいく末期的状況」(日本共産党の志位和夫委員長、二日の記者会見)です。

自己否定にも

 福田首相の「新体制」発言は、太平洋戦争前夜の一九四〇年、近衛文麿首相の「新体制」声明をほうふつとさせました。「新体制」は、政党解散・大政翼賛会結成へとつながった歴史があります。

 福田・小沢会談と、結局民主党が拒否した連立協議の破たん。「首相は『危険な賭け』に失敗したと言え、政権が死に体となる可能性も否定できない」(「東京」三日付)、「小沢氏に近い党幹部も『小沢さんはもしかしたら代表を辞めるかもしれない』と指摘」(「毎日」同)などと報道されるほどです。

 自民党と民主党、衆参の議席の九割を占める大連立構想自体が、「二大政党制」の自己否定にもつながるものです。


自・民会談

何があり どこが問題

国民あきれた

永田町ぼう然

 「国会の状況を打開しなければならない」として福田康夫首相が唐突にもちかけた連立協議。2人だけの会談で小沢一郎民主党代表は、提案をもちかえりましたが、役員会で反対にあい、首相に拒否回答を伝えることになりました。両党トップの密室劇の経過が示すものはなにか。

「オープンに」の明言は…

密室談合

 国会議事堂の衆院と参院のちょうど中間、玄関ロビーの上三階にある常任委員長室。二日の福田首相と小沢代表との党首会談には、百人を超す記者が詰めかけごった返しました。しかし、委員長室には「会議中」の札がかけられ、シャットアウト。国民世論を拒絶するかのようでした。

 「一番肝心なところは福田、小沢のお二人だけで、まさに密室といわれても仕方ない」。翌三日朝の民放番組でも司会者がこう指摘した両者の会談。福田首相の言い分である「国会の状況を打開する」ためなら、国会の場で正々堂々議論すればいいことです。

 小沢氏自身、九月、安倍晋三前首相からの党首会談の打診を断った際、「国会の論戦で十分やれる。できるだけオープンな形でやった方がいい」と明言していました。

 ところが十月二十九日、福田首相からの突然の党首会談の申し入れを受諾。日本共産党の市田忠義書記局長が「国会運営のあり方、議会制民主主義のあり方からいって、きわめて重大だ」と密室談合を批判、世論のきびしい反応も高まっていたにもかかわらず、二回目の密室談合で連立協議まで踏み込んだのです。

 小沢氏自身の言い分やこうした経過に照らしても、密室談合は筋が通りません。

 福田首相による小沢氏への打診内容を知らされていたのは、自民党内でも森喜朗元首相ら一握りの幹部だけだったといいます。党首二人だけでこそこそと、ことを動かすやり方は議会制民主主義を壊すものにほかなりません。

 「東京」三日付社説はこう指摘します。「ねじれ国会に期待されるのは緊張感ある与野党の論戦だ。怪しげな大連立話で、それがおざなりになるとしたら国民には由々しき事態というしかない。密室談合は打ち切って公開の場での健全な勝負を促したい」

「大政翼賛会だ」の声

大連立協議

 「こんな連立合意を受けたら、民主党は終わりだ」。二日夜、ある民主党関係者はこう吐き捨てるように語りました。

 参院選で示された自公政治ノーの民意に真っ向から背く大連立構想。党首会談を終えた小沢氏は、民主党の四役会議で、「首相から連立の申し入れがあった。皆さんの意見を聞きたい」切り出したとき、出席者から「えっ」という驚きの声さえ上がったといいます。

 鳩山由紀夫幹事長も「大連立は『大政翼賛会』的な話で、(世論から)批判を受ける。とてももたない」とのべざるを得ませんでした。連立の協議自体が民意に反することを認めたのです。

 自民党内からも「大義なき野合で、首相の暴走だ」(若手議員)、「首相への批判は出るんじゃないか」(中堅議員)などと、首相の「独走」に厳しい声が上がったといいます。

 ところが、小沢氏は福田首相に「連立拒否」を電話で伝えた後も、「国際貢献、自衛隊のあり方等について、私どもに非常に大きな理解をして示していただきました」「誠意ある申し出をいただきました」と感謝さえ表明しました。

 日本共産党の志位和夫委員長は、二日夜の記者会見で次のように指摘しました。

 「自公政権打倒、解散・総選挙だといってきた政党の党首が、(連立の)提起をその場で『これは論外だ』といえなかったということ自体が不可解な行動だ」

連立の“誘い水”にも

派兵恒久法

 「民主党は、もしそういう現実が動き出すとすれば―動き出すというのは(派兵恒久法の)立法作業その他をなされるという判断さえあれば―現在のインド洋上の給油はできるだけ(中断の)間隔を短く、実行に移るよう考えてみようということだった」

 自民党の伊吹文明幹事長は二日夜の記者会見でこうのべました。小沢氏が派兵恒久法の「立法作業」を条件に、新テロ特措法案に賛成する考えを示したことを明らかにしたのです。

 派兵恒久法は、これまでのように自衛隊の海外派兵のたびに特別立法をつくることなく、政府の判断次第でいつでも派兵を可能にするもの。昨年自民党がまとめた原案では、「安全確保活動」の名で米軍がイラクなどで展開する掃討作戦まで可能にする内容が盛り込まれています。

 志位委員長は、党首会談前の記者会見で首相と小沢氏が恒久法でエールを交換している事態を示し、「非常に重大な事態の進展だ」と指摘。「恒久的な憲法違反法であり、絶対に反対だ。強い警戒をもって事態を注視したい」とのべました。

 まさにこの警告どおり、自民党は恒久法を連立の「誘い水」とし、小沢氏はそれに乗りかかったのです。

 政局は、解散・総選挙の可能性をはらんでいっそう緊迫しています。


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