2007年11月1日(木)「しんぶん赤旗」

主張

取り調べの可視化

えん罪生まぬ司法への第一歩


 日本の司法制度改革をめぐり、「取り調べの可視化」実現を求める声が高まっています。

 刑事事件の捜査段階で警察や検察が被疑者に対して行う取り調べの一部始終をビデオ録画やテープ録音し、後で検証できるようにすることです。無実の人に取り返しのつかない苦しみを与える冤罪(えんざい)事件は、威圧や脅迫、利益誘導などで、被疑者が自白を強要されたことから起きています。可視化は、こうした違法・不当な取り調べを抑止し、冤罪を防ぐためです。

国際水準へ当然の流れ

 鹿児島県議会選挙をめぐり公職選挙法違反で起訴された十二人の被告全員が無罪になった志布志事件、女性暴行で服役後に真犯人があらわれ再審で無罪が確定した富山氷見事件と、重大な冤罪事件が相次ぎました。確定判決が「自白の成立過程で、追及的・強圧的な取調べがあった」(志布志事件)と述べる通り、外部との連絡をとれない密室で、長時間にわたり、肉体的にも精神的にも責めさいなむ取り調べが行われ、被疑者が意に反して虚偽の「自白」をさせられたことが明らかになっています。

 日本の刑事裁判では、取り調べで作成された自白調書に過度に依存する「自白偏重」がしばしば問題にされます。自白を強要された被疑者が、裁判で「強要」を主張し、自白を否定しても、客観的に証明するのはきわめて困難で、それが誤判の原因になっています。可視化は、その検証を可能にし、無法な取り調べを抑止する効果もあります。自白の任意性・信用性の認定に長い時間がかかっているいまの裁判を迅速化するうえでも大きな意味があります。

 日本共産党は、国民のための司法・警察制度改革の課題として、捜査機関の取り調べの全過程を可視化するよう求めてきました。

 国会では、仁比聡平参院議員が、欧米やアジアの多くの国で可視化が導入され、国連の国際人権(自由権)規約委員会が日本にたいして導入を勧告している事実をあげ、「国際水準は可視化が当然の流れ。なぜ抵抗するのか」と政府を追及しました(三月、法務委員会)。吉井英勝衆院議員も「密室で自白を強要する違法な捜査方法をなくし、可視化を速やかに実現すべきだ」と要求しました。(十月二十六日、内閣委員会)

 これに頑強に抵抗しているのは警察です。国会答弁では▽被疑者と捜査員の信頼関係が崩れる▽暴力団員などが組織の報復を恐れ供述しなくなる▽第三者のプライバシーが侵害される―という「理由」をあげていますが、いずれも運用面の工夫で解決することです。これでは、警察は違法な捜査手段を手放したくないのだと判断せざるをえません。

 鳩山邦夫法相は検察幹部を集めた最近の会合で「冤罪事件はあってはいけない。冤罪は限りなくゼロ、できればゼロにしなければならない」と訓示しました。しかし、冤罪を生む構造的な問題に手をつけず、捜査担当者の心構えをいくら説いても意味がありません。可視化の実現は冤罪を生まぬ司法への第一歩です。

裁判員制度を前に

 二〇〇九年には裁判員制度がはじまります。冤罪を生まない、国民が参加しやすい制度とするためには、明瞭(めいりょう)な証拠提出が必要です。可視化の実現はそのためにも不可欠です。

 冤罪は被害者の人生を台無しにします。強引な取り調べで泣かされている無実の人々が少なくない現実を見据え、人権を守る法制度への改正を急ぐべきです。


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