2007年10月21日(日)「しんぶん赤旗」

時の焦点 綱領の目で考える

働けど貧困

なぜ深刻化 どうすれば


 ワーキングプアとよばれる働く貧困層の増大が、深刻な社会問題となっています。世界のなかでも発達した資本主義の国日本でなぜ貧困が深刻化するのか、どうしたら打開できるのか―日本共産党綱領の目で見るとくっきりしてきます。


壊されたルール

「現代の奴隷労働」

グラフ

 「これは現代の奴隷労働です」。先に東京で開かれた反貧困集会で、日雇い派遣で働きネットカフェで仮眠をとる生活を余儀なくされた四十歳の男性はこう訴えました。

 男性は今春、妻と二人で東北の農村から仕事を求め東京に出てきました。コンビニ弁当をつくる食品会社で派遣として働きます。面接のさいには勤務時間は午前零時から同六時までとの条件でしたが、現場にいくと午後十時から翌朝六時までで休憩もありませんでした。あまりの違いに四日目に妻と二人で飛び出します。東北の実家は夕食もおかゆのようにして暮らす生活で頼ることもできず、東京の街をさまよいます。二人の所持金は一万三千円。一週間後には心中するつもりだったといいます。

 幸い三日目に妻が旅館での住み込みの仕事を見つけ一人働きにいきます。男性は、午前九時から午後八時すぎまでトラックに荷物を積み込む日雇い派遣で食をつなぎます。仕事を終えてから午後十一時ころまで何カ所も公園をさまよい、ネットカフェのナイトパックで三時間ほど仮眠する日々でした。

 「公園にずっと座っていて通報され、職務質問にあったこともありました。情けなく悲しくみじめでした。大手派遣会社は、堂々と広告を出していますが、怒りでいっぱいです。給料の半分をピンはねし、けがをしても労災隠しをする。仕事がなくなると首をきる。このようなことが許されていいのでしょうか」

33%が非正規労働

 一生懸命に働いても食べていけない。暮らす家もない…。男性の例は特別ではありません。日雇い派遣とは、登録していた派遣会社からメールなどで、その日の仕事や場所が送られてきて都合があえば予約を入れる仕組みです。日給は数千円。懸命に働いても月十万円前後にしかなりません。この日雇い派遣を含む登録型派遣は百九十三万人に及びます。

 国の最新の調査では派遣、契約社員、パート、アルバイトを含む非正規労働者は千七百三十一万人に達し、全労働者の33%を占めるまでになっています。その半数近くが年収二百万円(月十六万六千円)未満です。

「日本社会の重大な弱点」

大企業・財界の横暴

 なぜこんな事態が起きるのでしようか。日本共産党綱領は「大企業・財界の横暴な支配のもと、国民の生活と権利にかかわる多くの分野で、ヨーロッパなどで常識となっているルールが確立していないことは、日本社会の重大な弱点となっている」と指摘、ルールのなさに原因があるといいます。

 非正規労働者の増大の経過をみると戦後、不十分ながらもかちとってきた雇用や労働のルールを財界と政府が一体となって破壊してきたことがわかります。

 一九四七年に職業安定法が制定されるまで日本では、口入れ屋という労働者供給事業が野放しにされていました。建設現場や工場に労働者をあっせんし賃金をピンはねする(中間搾取)もので労働者を低賃金と過酷な労働条件に置いていました。

 労働者を保護するために職安法四四条は、この労働者供給事業を禁止し、雇用のありかたを労働の提供をうける企業が直接雇用することを原則にしました。これは、労働基準法の定めた八時間労働制などとならぶ大切なルールでした。

 このルールを破壊したのが八六年に施行された派遣法でした。派遣は、労働者を雇用した派遣元が受け入れ会社(派遣先)に出向かせて就労させるというもの。労働者は指示を受けて働く会社とは雇用関係がありません。対象業務は十六に限定して施行されますが、労働者供給事業の復活でした。

 財界・大企業は、九五年の「新時代の日本的経営」にみられるように、正規雇用を切り捨て多様な非正規雇用に置きかえることを戦略に掲げました。トヨタが「カンバン方式」として系列の下請け会社にたいし、低単価で必要なときに必要なだけ部品を納入させる過酷な制度を、雇用の場に持ち込もうとしたのです。

 財界の要求にこたえ政府は、派遣対象業務を次々に広げ、九九年には原則自由とし、二〇〇三年には製造業にも拡大。一気に派遣が広がりました。

 財界の狙う労働ビッグバンといわれるものです。「一日八時間、週四十時間」という労働時間のルールも撤廃しようとしています。


表

つくろうルール

当たり前のことを

 働いても生活できないという現代日本の貧困は、利益のためには当たり前のルールさえ破壊し、労働者を物のように使おうという、財界・大企業と政府によってつくり出されたものでした。

 党綱領は、この事態を打開する方向について第四章「民主主義革命と民主連合政府」で明らかにしています。

 「国民の基本的人権を制限・抑圧するあらゆる企てを排除し…人権の充実をはかる。労働基本権を全面的に擁護する」「『ルールなき資本主義』の現状を打破し、労働者の長時間労働や一方的解雇の規制を含め、ヨーロッパの主要資本主義諸国や国際条約などの到達点も踏まえつつ、国民の生活と権利を守る『ルールある経済社会』をつくる」

 現行憲法の全面実施とヨーロッパや国際条約で当たり前になっているルールを労働者と国民の共同したたたかいでつくっていこうというのです。

打開の道をひらく

 その動きが、いまうねりになろうとしています。派遣労働者が、偽装請負や禁止されているピンはねの実態を労働組合をつくり告発、日本共産党国会議員団が国会で追及するという連係プレーで、偽装請負禁止通達を数次にわたって出させ、直接雇用への道を切り開いています。全労連や連合、野党が、日雇い派遣禁止など派遣法の見直しで一致する状況が生まれています。時給千円以上という最低賃金制度の実現についても一致した要求になっています。

 労働時間制を廃止し残業代ゼロ法案といわれたホワイトカラー・エグゼンプションの法案提出を見送らせました。ただ働き(サービス残業)の根絶通達をださせ、〇六年度調査では二百二十七億円のサービス残業を支払わせる力になっています。

 日本共産党は、当面こうした一致する要求の実現のために運動します。党綱領が示している「人間らしく生き働く」ための改革を現実のものにする民主連合政府の実現に向けて力を尽くします。党綱領は、こうのべています。「民主主義的な変革は、労働者、勤労市民、農漁民、中小企業家…など独立、民主主義、平和、生活向上を求めるすべての人びとを結集した統一戦線によって、実現される」

憲法と国際基準では

 「人間らしく生き働く」ルールづくりのために党綱領が生かすとしている現行憲法は、基本的人権を永久の権利として定め(一一条)、個人として尊重され、幸福追求権を保障(一三条)し、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利とその保障を国に課しています(二五条)。そのために勤労の権利や賃金など労働条件を法律で定める(二七条)とし、労働者の団結権、団体交渉をはじめ行動権を保障(二八条)しています。

 国際ルールとはどういうものでしょうか。

 国際労働機関(ILO)は、「国際労働機関の目的に関する宣言」(「フィラデルフィア宣言」、四四年)で「労働(者)は、商品ではない」との原則を掲げ、多くの条約と勧告を採択しています。これが国際労働基準になっています。

 雇用では直接・常用という完全雇用でなければならないとしています。解雇と期間の定めのある有期契約を規制、労働時間制を基礎とし、パート労働者とフルタイム労働者との均等待遇を求めています。賃金は、同一労働同一賃金、最低生活保障を原則としています。貧困と格差の解消を求めています。

 ヨーロッパでは九六年に施行された欧州連合(EU)の労働時間指令は、(1)残業を含め一週間の最大労働時間は平均で四十八時間とする(2)一日最低、連続する休憩は十一時間とする(3)労働が六時間を超える場合、一回の休憩を―などを原則にしています。

 しかも、これらは上限規定です。フランスでは、なしくずす動きが強まっていますが、週三十五時間制をとっています。

 派遣についてのEU指令(〇二年)は、差別禁止の原則を派遣労働者に適用することを求めました。これは棚上げになりましたが、大半の国は、派遣先の正規社員との均等待遇を法律で定めています。



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