2007年10月17日(水)「しんぶん赤旗」

タクシー値上げ相次ぐ

規制緩和のツケ国民に

問われる政府と一部企業の責任


 タクシー運賃の値上げが各地で相次いでいます。ワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれて久しい運転者の待遇改善を理由としています。規制緩和のツケを利用者に押しつける結果を招いた政府や一部企業の責任が問われています。

 四月に値上げした大分県では、小型車の初乗り運賃(上限)は五百六十円から六百二十円になりました。

 「運賃改定に連動して、月一万円から二万円近い賃上げになっている。あまりにひどい運転者の待遇改善につながる」

 タクシー運転者らでつくる自交総連大分地方連合会の衛藤和範書記長はこう指摘します。県内のタクシー運転者の年収は全国平均を下回り、昨年は二百六十四万円。負担が増える利用者からも、「運賃が上がれば、みなさんの賃金も少しは良くなるんですよね」と、値上げに理解を示してくれる人も多いと言います。

労働条件の悪化

 タクシーの運賃(上限)は今回、値上げ申請が相次いだ五十地域について、国土交通省が審査。長野や沖縄本島、名古屋、和歌山など十地区で認可され、東京の申請も認められる見通しです。

 運転者の労働条件悪化をもたらしたのは、規制緩和です。

 タクシー業界は二〇〇二年の規制緩和で増車や運賃が自由化され、増車と運賃の値下げ競争が始まりました。

 しわ寄せは運転者に回され、賃金の時間額では十九地方が八百円未満で、長崎と青森では最低賃金を下回りました。

 早出や残業など長時間労働が広がり、タクシーの交通事故は約二万四千件にものぼる状態が続いています。

 政府は“規制緩和によってサービスはよくなり運賃も安くなる”と言っていましたが、現実は安全輸送が脅かされ、運賃の値上げをもたらす結果となっているのです。

 しかし、運賃の値上げが自動的に賃上げなど待遇改善につながるわけではありません。事業者が値上げにあわせて賃金の歩合率を逆に引き下げるケースが少なくないからです。

 自交総連は昨秋以降、待遇改善を確実に事業者に実行させる指導を、国交省に求めてきました。国交省は当初、「賃上げは労資の問題」と背を向けていましたが、三月、世論と運動に押され、待遇改善を指導する通達を出しました。

 自交総連東京地方連合会は九月、運賃値上げに伴う労働条件の改善を求め、都内の約三百八十社の事業者でつくる東京乗用旅客自動車協会と協定を結びました。

 協会の会長名での協定は、一九七八年の自交総連結成以来初めて。規制緩和によって痛めつけられた事業者と労働者の共同の広がりを示すものです。

増車競争に批判

 見逃せないのは、過当競争に明け暮れる一部企業の存在です。

 東京では、四大大手の一つ、日本交通が八月に九十五台を増車。今年になって百四十二台も増やし、批判が高まっています。

 石川県金沢地区では九月以降、一部の事業者が値下げするため、値上げを申請していた事業者の取り下げが続出。一転して五百六十円への値下げ申請が相次ぎました。個人タクシーからは、「一部の経営者の思惑や駆け引きは許せない」との声が上がっています。

 自交総連は、需要に合わせて減車し、増車競争をやめさせるよう求めています。

 自交総連の菊池和彦書記次長は、「運賃の値上げは、最低限の安全運行を確保するコストとしての運賃値上げには理解を求めたい。しかし、労働条件を改善しない事態があってはならず、経営側が責任を果たすよう求めていきます。国は規制緩和によって値上げを招いた事態を反省し、規制緩和を今こそ見直すべきです」と話しています。(酒井慎太郎)



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