2007年9月17日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

安心でおいしい農産物

届けたいから


 実りの秋を迎え、稲の刈り取りも始まります。食の安全にたいする関心も高まり、消費者と交流しながら、農薬や化学肥料を極力使わない米や、安心できる農産物をつくろうというとりくみを紹介します。


田んぼの生き物と有機稲作

山形おきたま産直センター

地図

 有機稲作に取り組む山形県南陽市(なんようし)の農事組合法人山形おきたま産直センター(渡沢賢一組合長)を訪ねました。

 南陽市漆山にある渡沢賢一さん(55)の田んぼと水路は生き物にあふれていました。トノサマガエルが気持ちよさそうに浮いている水路に網を入れるとドジョウ、タイコウチ、ツチガエル、カワエビなどが採れました。

環境に配慮して

 田んぼのあぜには「有機栽培の実証・生きもの調査実施水田」の掲示板が。「田んぼの生きものの力を土づくりや抑草に生かす技術を組み合わせ、一切の農薬及び化学肥料を使用しない環境創造型農業に取り組んでいます」と書かれています。

 おきたま産直センターの組合員は二百八十二人。五十四ヘクタールの水田で無農薬・有機稲作を、二百九十ヘクタールで特別栽培米(農薬と化学肥料を50%減)を作っています。サクランボ、ブドウ、洋ナシや野菜、畜産・加工の生産・販売もしています。

 環境創造型農業について渡沢さんは、「いのちはぐくむ有機稲作です。田んぼに多様な生き物を復活させ、その相互作用で雑草の発芽を抑制します。土づくりが基本です」と説明します。

 有機稲作は水管理と有機肥料、抑草資材を巧みに組み合わせた農法です。冬期も湛水(たんすい)にしますが、雪の多い置賜(おきたま)地方では融雪水を利用した「雪みず田んぼ」にしています。

 米ヌカを主体とした発酵肥料や米ヌカ、クズ大豆の抑草資材を入れた田んぼでは原生生物が大量に発生。ユスリカ、イトミミズが土をトロトロ状にして雑草の発芽を抑えます。カエルやクモは害虫を捕食します。

消費者と連携し

 三十数年前から無農薬・有機稲作技術の体系化に取り組んできたNPO法人民間稲作研究所(栃木県上三川町)の稲葉光國理事長(63)は「おきたま産直センターの有機稲作は全国的にも優れています。消費者との田んぼの生き物調査もすばらしい」と評価します。

 田んぼの生き物調査を中心になって続けているのは、産直センターの青年部。今年も五月、六月、七月に組合員の有機稲作田んぼでイトミミズやユスリカの数、カエル、クモの種類と数、田んぼ周辺の水路の魚類、トンボなどを調べました。

 青年部事務局長の渡沢寿さん(33)は「私たちの生き物調査は、田んぼの生物多様性を調べ、有機稲作技術の向上に役立てるためです。有機稲作の普及には消費者の理解と協力が必要で、調査には消費者や子どもたちも参加します」といいます。

 おきたま産直センターの有機稲作米は全国の食味コンクールで「日本一」に選ばれたこともある安全でおいしい米で、消費者に待たれています。

 おきたま産直センターの農産物を購入している東京都区職員生活協同組合の両角朗専務理事(53)は「六月にバスツアーで産直センターの有機稲作の田んぼを見学し、農家の方と交流しました。私たちも安全でおいしい農産物の生産と農村を守る運動を応援したい。来年の生き物調査には参加します」といいます。(宮本敦志)


“ほんなもんぼ”の農業

佐賀市・三気の会

地図

 佐賀市の無農薬(有機農法)の有機農産物を栽培するNPO法人「元気、有機(勇気)、活気の会」=三気の会、持永安之会長(60)=は活動を開始して三年目に入ります。環境にやさしい農業体験も参加者に大好評です。市内を中心に、農業を続けたいという農業者六人とボランティアの市民会員ら約六十人が支えています。

 各農業従事者の農地面積はあわせて約一ヘクタールです。

土づくりも工夫

 農業者で会長の持永さんは、有機農業の土づくりについて、「(玄米を精米する過程でできる)米ぬかを原料に使い培養し土に入れてかくはんさせます。有益な土着微生物を発酵させ、時間も手間もかかります」と話します。また、「安全な農作物を作り、地域と消費者に結びつき、安心して食べてもらうことです」とも。

 「ほんなもんぼ(ほんものだよ)体験学校」を毎年五月に開校。農業体験は年間を通しておこなっています。米や唐芋、サトイモ、タマネギ、ジャガイモなどの植え付けや草取りなど、十一月の稲刈り、収穫祭まで毎月続けます。

泥んこになって

 六月には、「子どもたちには泥んこになって土とふれあってほしい」との思いから、子どもを含め会員ら約三十五人が田植えを体験しました。苗は佐賀米ヒノヒカリです。

 「三人の子どもときました」という母親は「子どもたちのほうがすっかりよろこんでます。体験を通して食べ物を大切にしてくれたらなと思う」と笑顔で話しました。

 昨年の収穫祭では、家族連れが帽子や軍手姿で、ダイコンの間引き体験をはじめ、収穫したサトイモや唐芋を約十キロ入りの袋いっぱいに詰めこみ、「子どもと自然のなかで農業の体験をしたかった」とおとなも大喜び。収穫した野菜の料理や、新米のおにぎりに、舌鼓を打つなど、終日楽しみました。

 会のみんなでつくった農産物は、市内四店舗のスーパーの一角で「地元農産物コーナー」に卸しています。会は「生産する農村地で直売店をもつことが当面の課題」としています。

 この第一歩が、会の米粉(こめこ)パンの販売です。県内ではじめて無農薬のお米で作った「食パン」。お米をパウダー状に製粉して、市内のベーカリー店で焼いてもらい商品化しました。「しっとり、もちもち感」がとても好評です。将来は、「地域の農家を中心に有機農業で安全な農産物の直売だけでなく、環境にやさしい地域循環型農業を発展・普及させたい」と、手ごたえをもってとりくんでいます。(佐賀県・平川明宏)


広がってます

無農薬・有機稲作

 農薬と化学肥料に支えられた「慣行農法」稲作を、人や生き物、環境に安全な無農薬・有機稲作に転換する動きが広がっています。

 八月には栃木県宇都宮市で「東アジアにおける生物多様性を活(い)かした有機稲作の普及と地域環境の創造」をテーマに「日・韓・中 環境創造型稲作技術国際会議」が開かれました。


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