2007年9月14日(金)「しんぶん赤旗」
厚労省調査にみる
所得格差は過去最大
再分配で改善というが
税による効果は大幅減
厚生労働省が八月末に発表した「二〇〇五年所得再分配調査結果」によると、当初所得(税金や社会保険料を払う前の雇用者所得、事業者所得など)の格差が過去最高を更新しました。しかし同省は「所得再分配により所得格差が縮小している」と分析しています。本当でしょうか。
ジニ係数が上昇
同調査は、ほぼ三年ごとに実施しており、今回で十四回目です。今回特徴的なことは、当初所得での「ジニ係数」(0に近いほど格差が小さく、1に近づくほど格差が大きいことを示す数値)が、0・5263と初めて0・5を超え、過去最高になったことです。ジニ係数は一九八四年以降いっかんして伸び続け、九六年からは急激に上昇しています。(グラフ)
ジニ係数が0・5という状態は、所得の高い上位25%の人たちが、日本の富の75%を獲得していることを意味します。これは、残り25%の富を上位以外の75%の人たちで分け合っていることを示しています。
しかし厚労省は、「再分配所得」(当初所得から税、社会保険料を控除し、年金などの社会保障給付を加えたもの)のジニ係数は0・3873だとして、「格差の広がりは抑制されている」と強調しています。さらに、「年金をはじめとする社会保障制度」による改善度は24%もあると力説しています。
厚労省の主張について、専修大学の唐鎌直義教授(社会保障論)は「社会保障制度での再分配というのは、現役世代から高齢者世代に、社会保険料という形でお金を回しているということにすぎません。また、国民年金や厚生年金など同じ階層のなかでの再分配にすぎません。金持ちから貧困者というお金の流れではないので、社会保険料では格差是正の抜本的解決になりません」と問題点を指摘。そのうえで、「直接税での改善こそが基本で、税による改善度を高める政策にする必要があります」と話します。
金持ち優遇税制
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厚労省が、「社会保障制度での改善」を強調する背景には、今回の調査で、税による改善効果が大きく低下しているという結果が出たからです。九三年は税による改善度が5・0%ありましたが、〇五年は3・2%に減っています(表)。所得税の最高税率の引き下げなど金持ち優遇の相次ぐ税制改悪で、税が所得再分配の機能を果たせなくなっているからです。
さらに今回の調査から計算方法が変わったことを問題視する見方もあります。「税の改善度」の計算方法が変わったことで、三年前発表の調査結果では、〇二年に税の改善度が0・8%だったものが、今回は3・4%に修正されました。計算方法の変更がなければ、〇五年の税の改善度は0・5%程度の可能性があります。
唐鎌教授は「0・5%程度では、世論の反発が出るのは必至なため、改善度を少しでも大きく見せようとしているのではないか。こういう数字のごまかしではなく、政府は格差拡大の現実に対峙(たいじ)すべきです」と批判します。
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