2007年8月30日(木)「しんぶん赤旗」

底流 ほん流

生存権守る行政へ連携


 生活保護をめぐって行政による違法な申請拒否や排除によって命を失う事件が相次ぐなか、憲法二五条の保障する生存権を守る立場から是正を求める提言が注目を集めています。生活保護問題対策全国会議の要望書と、自治労連の「生活保護の職場政策」が示す事態打開の方向は―。


 弁護士、司法書士、学者・研究者らでつくる生活保護全国会議の要望書は、北九州市の生活保護行政について検証している第三者委員会に二十四日、提出したもの。生活保護をめぐって命が奪われることのないよう運用の是正を求めて同検証委員会に次の三点をもりこんだ「提言」をだすように求めています。

行政に周知義務

 (1)「生活に困ったら生活保護を利用する『権利』があります。申請があれば福祉事務所は十四日以内に判断しなければなりません」との趣旨をあらゆる方法で広報する。

 (2)あらゆる公共施設の誰もが手にできる所に生活保護申請書を備える。

 (3)憲法二五条の生存権保障を実質化するために生存権保障条例(仮称)を制定することを求め、▽行政機関の社会保障制度に関する広報・情報提供義務、市民の「助言請求権」の明示▽苦情処理の福祉オンブズマンを設置する。

 厚労省のすすめる生活保護基準切り下げや「手引き」による抑制策推進によって、北九州市はじめ各地の福祉事務所では、生活保護申請が窓口で規制され(水際作戦)、保護が決定されても自立指導に名をかりた「辞退届」の強要によって廃止するなど違法運用がまかりとおっています。

 憲法二五条の福祉国家の理念や同条にもとづく生活保護法などの福祉立法が想定する「利用する権利をもつものがもれなく給付をうける」ことに反しています。人々が権利を行使するには制度の存在と具体的内容が知られていることが前提です。

 一般的広報、行政窓口での情報提供、個別の事情に応じた助言は、制度運用の基本です。義務を負う行政として、とり入れるべきものです。

自治体労働者は

 実施機関である自治体関係者も「本来人の命を救うべき自治体が、人の命を救えなかった」ことを真剣にうけとめ、打開のための提案を出し、運動を強めています。

 自治体労働者でつくる日本自治体労働組合総連合(全労連加盟)の「生活保護の職場政策―住民の『生きること』を保障する仕事と職場をめざして(案)」がそれです。八月に開いた定期大会で発表しました。

 北九州市職労や埼玉県本部、大阪自治労連で取り組まれた生活保護職場アンケートを踏まえたものです。「職場に正義感あふれ、法制度に精通した職員集団が存在するなら、生活保護の抑制は容易にできない」との立場から打ち出されました。

 北九州市職労は、昨年五月に五十六歳の男性が餓死状態で発見された事件についてケースワーカーにアンケート調査を行いました。「急迫保護をかけるべきだ」が22・2%、「保護申請させるべきだ」が6・7%の一方で、「適切な処置」と答えたのは40・0%にのぼり、福祉事務所の措置が適切だったとする意見が最多でした。

 この点について「職場政策」は、北九州市の人事管理制度に成果主義が持ちこまれ、生活保護を抑制することが職員の昇任や本庁への異動の「成果」の物差しになっていることが大きく影響していると指摘。専門性を考慮しない短期間の異動が繰り返されており、「憲法や生活保護の理念を体現する職員の養成に困難をきたし、職場集団ができにくくなっている」と分析しています。

 これを打開するために「私たちの提言」として「ケースワーカーは福祉の心をもった専門職だ」と強調。「誇りと確信をもって住民・利用者が抱える生活上の問題を解決するために住民・利用者と一緒に考え、実現にむけて奮闘することが求められている」とよびかけ、次の三点を求める運動を提起しています。

 ▽ケースワーカーの専門性を確保し必要な配置をおこなう▽生活保護を生活困窮者に利用しやすいものに改善し、住民のなかに生存権保障としての生活保護制度をいきわたらせる▽生活保護制度を切り下げるのではなく充実させる。

 「生きること」の保障をめざした二つの提案は、響きあうものです。ひろがる市民運動と一方の当事者である自治体労働者の運動との連携は、事態打開の大きな力になるでしょう。


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