2007年8月26日(日)「しんぶん赤旗」
主張
アジア歴訪
安倍外交では共鳴得られない
安倍晋三首相のインドネシア、インド、マレーシア三カ国歴訪の旅が終わりました。
参議院選挙での失敗を外交でもりかえすとの思惑とは裏腹に、アジア諸国民の意識とのずれの大きさばかりが目立つ外遊となったのは否めません。アジア人の手でアジアの平和な共同体をつくるというASEAN(東南アジア諸国連合)の意気込みも理解せず、アメリカ仕込みの「価値観」を押し付けるだけの安倍外交では、アジアから共鳴を得られないことがいよいよ鮮明になりました。
「価値観」の押し付け
安倍首相が強調したのは、アメリカがイラク戦争など世界政策の基礎にすえている「自由と民主主義」などの「基本的価値」を売り込むことでした。
インドネシアで行ったASEAN政策についての演説では、わざわざ、各国の指導者が「民主的諸価値」「法の支配」などの言葉を使っていることをもちだし、「励まされている」とまでいいました。インド国会でも日印パートナーシップと「基本的価値」の結合を強調しました。
特定の価値観を押し付けることほどASEANに無理解なことはありません。ASEANは体制が異なっても平和的に協力していくことを基本にした集まりです。参加国は、資本主義、イスラム国、社会主義をめざす国とさまざまです。それがアジアの平和の流れを大きくしている原動力になっています。
ASEANに特定の「基本的価値」をもちこむことは、その価値と一致しない国との間に一線を画すことにもなります。体制の違いをこえて友好協力関係をつくりあげるというASEANの努力を無にするのは明白です。安倍首相は、「基本的価値」の押し付けがASEANの努力に横やりを入れるものだということを理解すべきです。
インド国会で、アメリカ、日本、オーストラリア、インドの四カ国が一体となって「拡大アジア」へと成長させると安倍首相が表明したことは、とくに重大です。日豪関係を条約なき安保同盟にしたように、日印協力の変容をはかるのは、アメリカ中心の新しい安保同盟関係をアジアでつくるねらいからです。それは、ASEANがめざしているアジア中心の東アジア共同体づくりを阻害する対立物になりかねません。
安倍首相の大国意識も見過ごせません。アジアと世界が直面する挑戦にたいして、「ASEANの皆様には、ぜひともわれわれ日本人と一緒に立ち向かっていただきたい」とのべました。これでは“おれについて来い”といわんばかりです。
安倍首相は、ASEAN政策で「思いやり、分かち合う未来を共に」と呼びかけました。「思いやり」というなら、まずやらなければならないのは、アジア侵略と植民地支配の歴史的責任を認め、被害者にたいして公式に謝罪し償いをすることです。ところが安倍首相は、極東軍事裁判で東条英機元首相らの無罪を主張したパール判事をもちだし、侵略戦争の正当化を印象付けようとさえしました。反省も謝罪もせずに「思いやり」をいっても共鳴は得られません。
アジアの一員として
安倍政権は、明治政府がアジアを差別し、“脱亜入欧”政策に走ったことが領土拡張と他国支配のための侵略戦争につながったことを思い起こす必要があります。アメリカの代理人としてふるまうのではなく、アジアの一員として、憲法九条を生かした自主外交に転換すべきです。