2007年8月19日(日)「しんぶん赤旗」
社会リポート
「糖尿病治る」
「神秘の力」信じ少女は死んだ…
インスリン持たず研修会参加
宗教がらみ 医療事故後絶たず
「病気が治る」という言葉を信じて宗教関連施設に入り、医療措置をされないまま死去した少女=当時(12)の両親が宗祖の刑事責任を問い、岐阜検察審査会に申し立てています。後を絶たない宗教がらみの医療事故。被害を防ぐため何が必要かを問いかけています。
「糖尿病なんて夜明け前。朝飯前より簡単だ」。少女の母親(52)=神奈川県=は、宗祖やスタッフのそんな言葉を忘れることができません。
事故は二〇〇五年七月、岐阜県恵那市山中の次世紀ファーム研究所(通称山の家、堀洋八郎代表)で起きました。入所三日目。糖尿病I型の少女は、治療に不可欠のインスリンを持参していませんでした。
山の家の堀代表は当時、健康食品製造販売の「万貴」(東京都江戸川区)代表取締役と、同住所の宗教団体真光元(まこも)神社宗祖を兼ねていました。万貴は、ヒメガマが原料の真光元(しんこうげん)を販売。説明書には、真光元とつばや体液が混ざって発生する「光合堀菌」に「癌(がん)や糖尿病など全ての病気の原因」となる毒素を取り除く「神秘の力」があると書いています。
入所翌日に
申立書などによると、母親は〇五年一月、自然療法教室のA経営者(女性)の講演会に出席。A経営者らが真光元の信奉者でした。
少女は小学三年で発症以来、朝、昼、夕、夜と四回のインスリン注射を欠かせなくなりました。学校では少女が自分で注射。厳密な血糖値管理。糖分補給のため、時をかまわずあめ玉をなめる。そんなことがいじめにもつながりました。
少女は苦痛を訴え、母親も不安を募らせます。そんな時に聞いた「糖尿病は夜明け前」や難病が真光元のパワーで治ったという話。母親には「地獄で仏」の思いでした。真光元を飲み、真光元入りのふろに入浴し、神通力を授かるという研修会にも母娘で出ました。
「すごいパワーがある」という山の家に誘われたとき、少女はインスリンを持参したくないと言いました。注射の苦痛から逃れたいという気持ちはよくわかる。A経営者に「偉い。その心掛けが病気を治す」と言われて母親も心を決めました。
入所翌日、母親は仕事で一時帰宅。それが最後の別れになりました。少女は意識低下、失禁、自己飲水不能となり、山の家の一室で死亡していました。
「病気治る」
難病や慢性病で苦しむ患者や家族が「病気が治る」と誘われたら…。
「死には至らないまでも、宗教がらみの医療事故は多く、表面に出にくい」と、宗教に詳しいジャーナリストの藤田庄市氏。今回の事故について「少女だけでなく母親の苦悩の深刻さに思いを寄せないと、ことの本質は見えてこない」と言います。しかし、そんな苦悩に正面から対応できる行政窓口は皆無に近い。
脳内出血患者を病院から連れ出して死亡させたライフスペース事件(一九九九年)では教祖の有罪が確定しましたが、その一年前、入浴修行中に起こった大学生の死亡事故で本格的なメスが入っていれば、第二の事件は防げたはずです。
今回の山の家でも、少女の事故の六カ月前に入浴中の女性が死去していますが、警察は事件性なしと判断していました。
民事裁判では損害賠償どまり。少女の両親は「事故根絶のために」と刑事手続きを求めました。
民事裁判で真光元側は、「堀代表は少女が糖尿病と知らなかった」「A経営者はインスリン不持参の相談を受けていない」などと主張しています。
事件の経過
05年7月 少女が死去
06年1月 両親が堀代表ら5人を民事提訴
同年7月 両親が堀代表、A経営者らを刑事告発
同年12月 岐阜県警がA経営者と母親を書類送検(過失致死容疑)
07年6月 岐阜地検、A経営者を起訴(過失致死、薬事法違反)、母親を起訴猶予、堀代表を不起訴
同年7月 両親が岐阜検察審査会に堀代表の審査申し立て(過失致死、薬事法違反)