2007年8月12日(日)「しんぶん赤旗」

主張

原爆症認定訴訟

控訴の取り下げを要求する


 厚生労働省は十日、国の原爆症認定申請却下処分を取り消した熊本地裁の判決を不服として福岡高裁に控訴しました。救済を求めてやむにやまれず裁判に訴えた被爆者に一片の思いやりもない安倍政権に怒りがまきおこっているのは当然です。

 しかも、安倍晋三首相は五日、広島で被爆者団体の代表に原爆症認定基準を「見直すことを検討させたい」とのべたばかりです。見直しを約束しながら、行動では被爆者を裏切る態度は断じて許されません。ただちに控訴を取り下げるべきです。

認定基準の不合理性

 政府の原爆症認定基準は、救済の対象をことさら狭める手段となっています。政府はこれを使って原爆症の認定を申請する人たちをことごとく排除しています。このため、被爆者手帳をもっている二十六万人のうちわずか二千人余り、0・8%しか原爆症と認定されておらず、多くの被爆者が置き去りにされているのです。

 現在の基準は、長崎の松谷英子さんの原爆症認定却下処分取り消しを政府に命令した二〇〇〇年七月の最高裁判決をうけて、「手直し」されたことになっています。

 しかし、政府が「より科学的」(〇二年七月十七日衆院厚生労働委員会、下田智久厚労省健康局長)といったこの基準は、原爆症認定申請の却下数をそれまで以上に増やしただけです。爆心地からの距離で受けた被曝(ひばく)線量を推定する計算式を主要な要素にする不合理性をそのままにし、それを機械的に当てはめたからです。

 昨年から今年にかけて出された六回の地裁判決はいずれも、この不合理を正面から指弾していることが特徴です。熊本地裁判決も、一・三キロ以遠での放射線被曝線量の政府の計算値が「実際よりも低い」、数十キロ離れたところでも「外部被曝を受けた可能性がある」とのべています。原爆投下のあと爆心地に入った「入市被爆者」についても、飲食などを通じて体内に入り込んだ「残留放射線による内部被曝の影響が考慮されていない」と厳しく指摘しています。政府に認定基準の根本的見直しをせまる内容です。

 政府は、六つの判決が「それぞれ考えが異なっており、行政が依拠できるような統一的な考え方は示されていない」といって控訴しました。しかしどの判決も、政府の認定基準を具体的に検討し被爆者の実態にあわないと批判しています。判決内容がばらばらのようにいうのは間違いです。こんな道理のないこじつけで控訴するなどもってのほかです。

 政府の認定基準では原爆の後遺症で苦しむ多くの被爆者を救うことができないことはあきらかです。判決は被爆者救済にとって必要なことを提起しています。これをただちに実施に移すことが政府の責務です。

 安倍首相は見直しを検討すると被爆者に約束しました。空約束に終わらせてはなりません。厚労省も現行認定基準に固執せず、認定制度の抜本的見直しにとりくむべきです。

時間は限られている

 被爆から六十二年がたちます。原爆症の後遺症はいまなお多くの被爆者を苦しめています。各種のがんや肝機能障害などをひきおこし、「今度はどこに病気がでてくるのか」と心配の毎日です。しかも高齢化も重なり、原爆症認定集団訴訟の原告でも少なくない方が亡くなっています。被爆者には時間はありません。

 政府は、原爆症認定制度を抜本的に見直し、被爆者救済の道を大きく広げるべきです。


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