2007年8月7日(火)「しんぶん赤旗」
主張
高校野球開幕
優れた人間教育の実践の場に
八十九回目の夏の全国高校野球選手権大会が八日から始まります。今年の地方大会には四千八十一校が参加し、全国で球音を響かせました。その予選を勝ち抜いてきた四十九の代表チームが、十五日間にわたって甲子園で熱戦をくりひろげます。
被災地や夕張からも
中越沖地震のため、地方大会が六日間も中断した新潟からは新潟明訓が代表になりました。八日の開会式では、能登半島地震で甚大な被害をうけた石川県輪島市の門前高の野球部主将が入場行進の先導役をつとめます。始球式は、財政再建にとりくむ北海道夕張市の高校球児がマウンドに立ち、思いをこめて投じます。
一九一五年に最初の大会が開かれた夏の高校野球は、日本社会に根付きながら、ときどきの時代をも映してきました。ふりかえれば、懐かしさとともに数々の場面が目に浮かぶファンも多いことでしょう。
しかし今夏は、その甲子園にきびしい目が注がれます。プロ野球西武球団の裏金発覚に端を発し、球界の暗部が照らし出されたからです。
高校球界も大きく揺れました。日本高校野球連盟(高野連)が学生野球憲章に違反する特待生制度の実態を調査したところ、高知県をのぞく四十六都道府県の三百七十六校・七千九百七十一人が特待生だったことがわかりました。学生野球の歴史的な経緯もあり、憲章では、野球部員を理由にした金品の受け取りを固く禁じています。ところが、学費や寮費の免除、なかには生活費まで援助している高校もあるのが現状です。
いま高野連は有識者会議を設け、この問題を幅広く論議しています。そこでの話も生々しい。ヒアリングに招かれた中学校関係者は、野球が進路手段となり、学校とは無関係に進路先が決まってしまう傾向があると報告しました。「とにかく推薦状を出してください」とつめよる親もいて、保護者や少年野球指導者とのトラブルに悩んでいるといいます。
親元を離れて野球に打ちこむことを決意した選手の多くは、好環境の下でもっとうまくなりたい、力を伸ばしたい、と純粋に思っているはずです。しかし、現場でも問題は山積しています。学校の宣伝のため甲子園に出ることが目的化し、勝利至上主義がはびこる。野球漬けの日々を送り、治外法権的な閉ざされた空間で体罰やしごきが生まれる―。実際、野球強豪校の暴力・不祥事は後を絶たず、最近でも代表校の暴力行為が発表されました。そこでは、「教育の一環」としての高校部活動の場が後景に追いやられています。
また、甲子園大会にプロのスカウトが居並ぶなど、プロ野球が高校野球を選手供給の草刈り場にしていることも球界のゆがんだ構造をつくっています。くわえて、大会を主催する大手紙が拡販のために高校野球を異常にとりあげ、他のマスメディアもそれに追随し、スターづくりに奔走していることも球児から健全な姿勢をうばっています。
フェアな精神の体得
もともと学生野球は「試合を通じてフェアの精神を体得すること、幸運にもおごらず非運にも屈せぬ明朗強靭(きょうじん)な情意を涵養(かんよう)すること、いかなる艱難(かんなん)をもしのぎうる強健な身体を鍛錬すること」(憲章前文)を理念としています。それは、優れた人間教育の実践でもあるでしょう。
今大会が、正々堂々のせりあいのなかで野球を通して成長する若者の屈託のないたくましい姿をしめし、高校野球再出発の起点の舞台となることを期待します。