2007年7月30日(月)「しんぶん赤旗」
原発激震
崩れた安全宣伝
全国で耐震・防災の総点検を
東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市・刈羽村)を襲った新潟県中越沖地震によって、地震による原発事故という国民の不安が現実のものとなりました。国と電力会社が根拠のない安全宣伝をしながら建設・運転をしてきた全国の原発は大丈夫か―耐震性と防災対策の総点検が不可欠です。(前田利夫)
根拠はなし
東京電力のホームページには、原発の地震対策として次のように書いています。
「現在、わが国の原子力発電所は考えられるどのような地震が起きたときでも、設備が壊れて放射性物質が周辺環境に放出される事態に至ることのないよう、(中略)厳重な耐震設計が行われています」
今回の地震で、大気中と海水中へ放射性物質が放出されたことは、東電の説明に根拠がなかったことを示しました。
ホームページには続いて、「活断層の上には建てていません」として、「原子力発電所の建設用地を決める際には、(中略)直下に地震の原因となる活断層がないことを確認しています」と説明しています。
しかし、今回地震を起こした活断層については調査もしていませんでした。
さらにホームページは、「考えられる最大の地震も考慮して設計しています」と書いています。
今回の地震では、原子炉が設置されている建屋で、設計値の最大三・六倍もの揺れを観測しました。「考えられる最大の地震」に、まったく根拠がなかったことを示しています。
同様の安全宣伝を行っているのは東京電力だけではありません。原発を保有している電力会社はどこも、同じ内容の宣伝をしています。電力会社の団体である電気事業連合会も同様の宣伝をしています。
中越沖規模の地震 日本のどこでも
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電力会社の原発建設を許可し、運転・管理の監視責任をもつ国の行政はどうでしょうか。
経済産業省原子力安全・保安院が編集したパンフレット(『原子力発電所の安全確保に向けて』)は、次のように強調しています。
「現実には起こりえないと考えられるような大地震も想定した安全対策がとられていることを、原子力安全・保安院は厳しくチェックしています」「設計に用いる地震力の設定から主要工作物の詳細設計にいたるまで厳しく審査しています」
M(マグニチュード)6・8という新潟県中越沖地震と同規模の地震は、「現実には起こりえない」どころか、日本のどこで起こってもおかしくない規模の地震です。地震の揺れが設計値の三・六倍に達したことについて保安院はどう説明するのでしょうか。
正当性実証
昨年三月、金沢地裁は北陸電力志賀原発2号機について、耐震設計に欠陥があるとして、運転差し止めを命じる判決を出しました。(北陸電力が控訴して係争中)
判決は、直下地震の想定が小規模すぎる、近くにある断層帯による地震を考慮していない、原発敷地での地震動を想定する手法に妥当性がない―などの問題点を指摘。「原子炉の敷地に被告(北陸電力)が想定した基準地震動を超える揺れを生じさせる具体的危険性がある」としていました。
今年三月の能登半島地震は、M6・9で、志賀原発の耐震設計では想定されていませんでした。同原発で観測された地震記録を分析した結果、設計上想定されている揺れを大きく上回っていました。金沢地裁判決の正当性が実証されました。
柏崎刈羽原発を襲った新潟県中越沖地震も、同判決の正当性を示しています。同判決を受け入れようとしない電力会社や国の不誠実な態度が問われています。
原発の地震防災対策について
日本共産党の緊急申し入れ
日本共産党の志位和夫委員長が二十五日に安倍晋三首相に行った「緊急申し入れ」のなかの、原子力発電所の地震防災対策にかんする事項は以下の通りです。
柏崎刈羽原発の耐震性と地震防災対策について、政府の責任で徹底的な調査・検証と再発防止策を確立すること。
一、今回の地震による被害の全容を明らかにし、安全対策の体制づくりを怠ってきた行政の責任を含め徹底的な原因究明をおこなうこと。国際原子力機関(IAEA)が勧告した火災防護の専門チームをつくってこなかった責任を究明すること。その際、住民の不安にこたえるためにも電力会社とは切り離した第三者による調査をするとともに、結果を国民に公表すること。
二、今回の被害の実態をふまえ、緊急に全国の原子力施設における地震防災対策を総点検すること。火災防護要員が原子炉運転要員と兼務している問題など、実効性のない計画を根本的に見直し、必要な設備と要員の確保をはかること。
三、設計値をはるかに上回る地震動が記録されたことを重くうけとめ、原子力施設全体の耐震基準見直しを含めた耐震性総点検をおこない、必要な耐震補強を直ちに実施すること。また、想定震源域の直上や活断層の近隣などの危険地帯に設置されている原子力施設について、その立地のあり方を抜本的に見直すこと。
東電や国 大地震の可能性無視
立石雅昭 新潟大学教授(地質学)
電力会社や国は、原発の耐震設計や安全審査の際に、地震を引き起こす断層について、地表や海底表面に現れている活断層の長さを重視して、起こりうる地震の規模を推定しています。
しかし問題は、内陸直下型の地震を引き起こす断層活動が、地下十数キロメートルで起こることです。私は、現在の科学技術レベルでは、地下十数キロメートルの状態を、表面に現れている活断層だけから正確に推定するのは無理だと考えています。
柏崎刈羽原発の近くにある長岡平野西縁断層帯の場合、地表に断続的に現れている断層の評価にあたって、東電や国の審査委員会は個々に分断して短く評価しています。国の地震調査研究推進本部は、長さ約八十三キロメートルの断層全体が一体として動き、大規模な地震が起こりうるという立場をとっています。ところが東電や国は、個々の断層が別々に動くという立場で、小さな地震しか想定していませんでした。
地震の規模の正確な推定は今後の課題ですが、設計上は、安全側にたって、全体が一つの断層として動き大規模の地震が起こるものとして扱うべきだと思います。
また、柏崎刈羽原発の直下でいつごろ断層活動があったのか、ということも問題になっていました。東電や国は、十二万五千年ほど前の地層に断層活動があると認めていました。当時の耐震設計指針(一九八一年策定)では、五万年前より新しい断層活動が認められれば、その上に原発を建ててはいけないことになっていました。しかし、十数万年前の断層だから大丈夫だと判断したのです。
昨年改訂された新耐震設計指針で最終間氷期以降(十三万年前以降)の断層活動が規制の対象になりましたが、東電は、断層が最終間氷期の地層全体を切断していないので、この規定に相当しないと主張しています。新指針の不備です。
東電は、もっと大きい規模の地震が起こりうる可能性を無視してきました。柏崎刈羽原発では、設計時の想定の三・六倍の揺れが、実際に起こったわけですから、安全神話にもとづく耐震設計のあり方を、根本的に改めるべきだと思います。
旧耐震設計指針では、直下で起こりうる地震として、M(マグニチュード)6・5、深さ十キロメートルの地震を想定するよう決められていました。ところが、新指針では、直下のM6・5の地震を想定することをやめて、あいまいな表現になりました。新指針について、改めてこれでいいのかという議論が必要です。