2007年7月11日(水)「しんぶん赤旗」
選挙の断面
“自衛隊ぐるみ”支援
元陸自イラク隊長の自民候補
隊員集めて「講話」連日
参院選で自民党が比例代表の“目玉”候補の一人にかつぎだした元陸上自衛隊イラク先遣隊長の佐藤正久氏(46)。「誇りある国づくり」「時代に即した『新憲法』の制定」などの公約から見えてくるのは安倍自公政権による「恐ろしい国づくり」の“斬(き)りこみ隊長”的役割です。「自衛隊ぐるみ選挙」を追いました。
こんな文書が部隊司令から隊員に「回覧」されています。
「部隊長等各位」とあり、佐藤候補の決意、活動状況をつたえ、個人献金や「応援者の紹介」を求めたあと、こうあります。「正久を『タダヒサ』等読み間違えられるため、口座名を除き『佐藤』を漢字に、『まさひさ』を平仮名としております。ご了解下さい」。手の込んだ候補者名の駄目押しです。
差出人は「佐藤まさひさを支える会」。
回覧の冒頭には「司令」の印が押され、所属隊員名欄にサインが書きこめるようになっています。部隊関係者は「通常の業務で流されている」と言います。
佐藤氏は、全国の駐屯地の体育館などに隊員を集めての「講話」に講師というかたちで連日のように立ち、全国二百五十の自衛隊施設中、二百カ所に足を運んで「票集めの斬りこみ隊長」(支える会役員)ぶりを発揮しています。
情報保全隊初代隊長も
この露骨な「自衛隊ぐるみ選挙」を可能にする仕組みがあります。
同会の組織図をみると、会長の山本卓眞氏は通信機メーカー大手の富士通名誉会長。富士通の防衛省からの昨年度受注額は四百四十一億円で第六位。山本氏は財界有数の「靖国」派で、日本の侵略戦争を肯定し、憲法「改正」を迫る「日本会議」副会長。「防衛庁は国防省に、自衛隊は三軍とすべき」が持論です。
顧問は、歴代の防衛事務次官、統合幕僚会議議長が、相談役には歴代防衛庁長官が、代表幹事は三菱重工に天下りした陸幕長、幹事には陸海空自衛隊の各幕僚長など元高級幹部が勢ぞろいです。
「遊説部」には、元陸上自衛隊中部方面総監らとともに「情報保全隊長」経験者の名も。日本共産党の志位和夫委員長が公表、国民的な批判を浴びている違法な国民監視活動を行っている「陸上自衛隊情報保全隊」の初代隊長で大手軍需企業、東芝に天下った人物です。
「支える会」本部には、陸上自衛隊の全国五方面隊に対応した部があり、各方面隊の歴代方面総監や師団長経験者の将官が複数配置されています。
海上自衛隊、航空自衛隊も同様に海将(補)、空将(補)などの元高級幹部がはりつき、防衛省の「背広」組には米軍再編の自治体対策で動いた元東京防衛施設局長などを配置しています。
若手自衛官の間で相次ぐ自殺やサラ金被害などの不祥事対策で配置された「先任曹長伍長」経験者も連ねています。
自衛隊トップから現場の隊員まで、文字通り防衛省、自衛隊あげての集票体制です。
現場の心は戦場の論理
自衛隊はなぜ参院選に“参戦”するのか。自民党国防族や自衛隊に詳しい関係者が言います。
「自民党が“ひげの隊長”として知名度の高い佐藤元隊長をかつぎだしたのは自衛隊員二十四万人と家族、OB票が目当て。さらに三菱重工から自衛隊グッズの土産店までいれれば三千社を数える納入業者の票は大きい。佐藤氏もイラク派兵時に十分な手だてもなく“戦場”にかりだされたことへの不満、要するに海外派兵するなら憲法も変え、十分に活躍できる装備や資金が使える本格的な派兵にすべきだという自衛隊・防衛省の言い分を国政に反映させるという思惑が一致した」
自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団の川口創事務局長は佐藤氏がかかげる「現場の心を国政に」の危険性をこう指摘します。「佐藤氏の“現場”はイラクの戦場だ。この戦場の論理を国会に持ちこむことは海外での武力行使を禁じる憲法の論理を崩すことになる。安倍政権主導のこうした軍の暴走を決して許してはならない」