2007年6月25日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
「教え子を戦場に送らない」
行動する教師たち
安倍自公政権が改悪教育基本法や改憲手続き法など戦後の民主主義制度を壊し始めています。その内閣の足元から、自衛隊の国民監視という“軍靴”がのぞき、各地に衝撃が走りました。第二次大戦を教訓に、「戦場に再び子どもを送るな」が染み通る高校現場では、「憲法を守れ。地域から平和の声をあげよう」との声がふつふつと起こり始めています。大阪と北海道から報告します。
「9条守れ」の一点で多彩に
大阪府高教
始まりは二年前の二月の寒い朝でした。大阪府南部にある府立高校の門前に防寒具に身を包んだ教員たちが立ちました。
白い息を吐きながら登校してくる高校生たち。数人の教師が校門に立っているようすを見て、服装や頭髪の指導かとちょっぴり身構えました。
先生ありがと 心ぽかぽかや
「おはようさん」とにこやかにリーフレットを配る教師たち。高校生向けの『憲法九条リーフ』を手渡し、「君らに読んでほしいねん」「家に持って帰っておうちの人と話してな」と声をかけました。
生徒たちは「ふーん、こんなん作ってるんや」「先生、ありがと。ちゃんと読むわ」と答えました。三十分の門前行動。教師たちは「体は冷え切ったけど、心はぽかぽかや」と話し合いました。
大阪ではいま、「九条の会」結成数が全国の約一割、六百十を数えています。府民過半数(四百四十万人余)をめざす憲法九条を守る署名が百十万人を超えました。
九条改憲で「戦争をする国」づくりを狙う安倍内閣や自民、公明与党、民主党などの動きが強まるもとで、大阪の府立高校では「九条守れ」の一点での教職員の共同が大きく広がっています。現在、府立高校の四割、六十七校に「九条の会」が結成されています。
先の高校「九条の会」も、昼休みにそうめんを囲んで、短冊に意見を書く会合や社会科教師がつくった「靖国神社Q&A」学習会を開きました。今年五月の例会では、「生徒が夢を持てていない。どうやって話をしてやればいいか」と職場の悩みも出し合いました。これらの集まりには組織の違いをこえてたくさんの教職員が参加しました。
府下各地の経験を持ちよって交流しようと、昨年七月、三つの「高校九条の会」がよびかけて、交流集会を開きました。
組織や立場の違いをこえて
ここには組織や立場の違いをこえて、連合系高教組の役員も参加しました。「九条の会おおさか」のよびかけ人の府生協連会長の津村明子さんが講演、みんなで職場のとりくみを交流しました。
「全日制と定時制の合同で会を結成し、憲法のこと、評価システムや『日の丸・君が代』のことを交流しています」「自衛隊、憲法、イラク、沖縄のことなど、ひたすら学習と懇談をしています」「フリートーク、『九条ネギ』だけをつかったお好み焼きを食べる会、平和コンサートなどみんなの裏ワザを生かした会です」「月一、二回定期的に街頭宣伝をおこない、たくさんの人が参加してくれています」と多彩な活動を出し合いました。
なぜ、高校の職場で九条を守る運動がすすむのかについて、大阪府立高等学校教職員組合(府高教)の筆保勝委員長は「日本をアメリカと肩をならべて『海外で戦争する国』に変えようとする安倍内閣の暴走に対し、『教え子を戦場に送らない』という教職員の良心が、いま『九条守れ』の一点で組織の違いをこえた共同を発展させるエネルギーになっています」と指摘します。
府高教は五月に開いた定期大会で、「憲法九条を守る国民多数派世論の結集のために、あらためて九条守れの一点での共同を全教職員によびかける」特別決議を採択しました。
自民党が「二〇一〇年の国民投票をめざす」という憲法改悪の参議院選挙公約を明らかにしたもとで、府高教はすべての学校に「九条の会」をつくること、九条改悪反対の府民署名二十万人分を一日も早くやりきろうとのよびかけをおこなっています。(中村 克彦)
憲法チラシ配り生徒と対話
北海道高教組
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北海道高等学校教職員組合連合会(道高教組・桜井幹二委員長)は一月、高校生向けの憲法チラシを作製し、防寒具に身をつつみ、雪を踏みしめて登校する道内の高校生に、「おはよう」と声をかけながら門前で配布しました。
感想や意見にメールで返事
チラシを読んだ感想がメールやはがきで寄せられています。高校生たちの声は憲法、平和を真剣に考える内容にあふれています。「賛成」「反対」の両論を紹介して、憲法九条改正論議の争点をわかりやすく説明したチラシには―。
「憲法は絶対に変えないほうがいい。強い国を目指すよりも平和な国を目指してほしい」(三年女性)
「戦争を認めることがなぜ『新しい時代にふさわしい憲法』なのか。過ちを繰り返すべきではない」(三年女性)
「日本が平和の憲法を守り、世界各国がそれを手本としてくれたら戦争は減り、世界平和へと近づくと思う」(一年女性)
「この素晴らしい憲法を自分達のような若者をはじめとするたくさんの人たちが守っていかなければならない」(三年男性)
寄せられた意見には返事も出します。
「環境権やプライバシー権は昔のままの憲法では対応できない。改正すべきです」(二年女性)との意見にメールの返事をしました。すると、「新しい権利も憲法を変えることなく対応できるとは知りませんでした。戦争の過ちを繰り返してはいけない。九条改正については反対です」という返信が返ってきました。
改憲手続き法が施行される三年後は、今の高校生全員が投票権者になります。
道高教組は高校生向け憲法チラシで対話をすすめながら、「憲法の理念に基づいた教育実践」を方針に掲げています。
職場9条の会結成数が54に
今年度の運動方針では「すべての職場で『九条の会』を結成し、教職員、PTA、すべての労働組合や地域との共同をすすめ、国民過半数署名の取り組みを前進させよう」と草の根からの運動を強めることにしています。
道高教組の分会が呼びかけて結成された「職場九条の会」は五十四にのぼります。いま、映画「日本の青空」の上映運動などに取り組む中で、「職場九条の会」の活動再開をすすめています。
若者がたくさんイラクに派兵された町では、会員が地域九条の会、新婦人や連合の組合員らとともに、九月の上映会成功に向けて取り組みを進めています。札幌市内のある高校では、「職場九条の会」の働きかけで職員室に憲法関連本のコーナーを設置しました。
イラクには道の自衛隊が第一番に派遣され、道民は「派兵反対、人を殺し、殺されに行くな」と抗議しました。自衛隊はその抗議する団体・個人にたいし、違憲・違法な方法で監視し情報を集めていたことが判明し、道民の新たな怒りを呼んでいます。
道高教組の飯塚正樹書記長は、怒りと抗議をこめてこういいます。
「いま憲法を学ぶことは、憲法の理念に反する現実がいかに広がっているかを知ることにもなる。単に条文だけでなく、『きみたちに何ができるか』と語りかけ、対話を重ねることが大切だと思います」「改憲手続き法は、不当にも公務員と教員の『地位利用』による国民投票運動を禁止しています。これは、いかに教員の影響力を恐れているかを物語るもの。改憲反対運動への委縮効果をねらったものですが、現場の教職員を励ましながら草の根のたたかいをすすめていきます」(北海道・小泉健一郎)