2007年6月16日(土)「しんぶん赤旗」
採点現場 混乱
全国学力テスト
グッドウィルの派遣労働者が明かす
文部科学省が四月に実施した全国いっせい学力テストの採点業務に携わっている派遣労働者から、「採点の基準がころころ変わり、混乱している」「やるはずだった日に仕事がないことが多く、生活できない」「こんなやり方ではまともなデータはとれない」との告発が日本共産党や赤旗編集局に寄せられています。(高間史人)
正誤の基準 クルクル
告発を寄せているのは介護事業で不正が明らかになったコムスンの親会社でもある、グッドウィル・グループの派遣会社から全国学力テストの中学三年生分の採点業務に派遣されている人たち。この業務は文科省がNTTデータと教育測定研究所(旺文社の子会社)に委託しているものです。
業務に携わっている人たちの話によると、採点は都内の二つの会場で行われ、採点者はグッドウィルなど複数の会社から派遣されています。記述式の設問一つを数十人が担当。やはり派遣で来ている人がリーダーとして配置されています。
中学生が書いた答案の該当部分だけが採点者の前のパソコン画面に示され、正解・不正解の解答例を示した基準書にもとづいて、画面上のボタンをクリックして採点していきます。
基準書になく正解・不正解の判断がつかない解答があった場合は、手をあげてリーダーを呼び、判断を仰ぎます。しかし、リーダーでも判断ができない解答もかなりあるといいます。正解・不正解の例が張り出され、それがどんどん増えている状態。リーダーによって判断が異なるケースも少なくありません。
国語の採点をしている男性は「記述式の問題では多種多様な答えが次々と出てきます。そのたびにリーダーに尋ねるため、採点はなかなか進まない。以前は不正解だった答えが正解になったり、逆に正解だったものが不正解になったりしています。でも、以前に採点した分をやり直しているようすはありません」と語ります。
数学の採点をしている男性は採点用のパソコンソフトにも問題があるといいます。「クリックする部分が小さく、しかも無回答と正解とがすぐ近くにあるので間違えやすい。間違えたまま気づかないケースもかなりあるのではないか」
この男性によると、採点者の中に居眠りや私語を続けている人がいても、リーダーは注意しないといいます。「注意する権限がないといいます。このようないい加減なやり方では、まともなデータはとれない」と語っています。
待機続き 生活に支障
数学の採点をしている男性はインターネットのホームページに派遣会社が出した採点者募集の広告を見て応募しました。
採点業務に入る前に五回の事前研修があるはずでしたが、四回に減らされました。「研修中からシステムがダウンすることがたびたびあった。システムが完成していないようだった」といいます。
五月十九日ごろから採点者が大幅に減らされ、待機状態が続きました。一週間に一日しか仕事がないこともあり、それも前日の夜にならないと出勤かどうかが決まらない状態。採点の仕事の代わりに倉庫番などの仕事をさせられたこともあるといいます。
「人員を過大に見積もっていたのではないか。五、六月はこの仕事をあてにしていたのに、こんな状態では生活できない。ほかの仕事を入れたくても、その日に(採点業務に)出てほしいといわれることもありうるのでできない。嫌になってやめる人も続出している」といいます。
別の採点者の場合はグッドウィル・グループの派遣会社に登録していたところ、四月初めに採点の仕事があるといわれ面接を受けました。「試験があったが形式的なもので、一緒に面接を受けた人たちと相談しながら書いた」といいます。
五月上旬から採点業務に入りましたが、五月後半からは当初予定していた日数の六割ぐらいしか仕事がなくなり、生活のためにほかの仕事もしました。
「文科省の仕事だというのできちんとしたものだと思ったが、働かせ方も採点のやり方も極めていいかげん。何十億円という予算をかけておいて、このようなことでいいのかと思う。仕事がなかった分の補償をしてほしい」と語っています。
|
不当な勤務キャンセル 賃金保障を
派遣ユニオンが要求
派遣労働者などでつくる派遣ユニオン(連合加盟)とグッドウィルユニオンは十五日、株式会社グッドウィルに対し、全国学力テストの採点業務に従事していた同社の派遣労働者が、勤務時間の一部を不当にキャンセルされたり、シフトからはずされたままになっているとし、キャンセルになった時間の賃金を全額保障することなどを求める要求書を送付しました。
採点基準のたび重なる変更などの混乱により、労働者が多大な精神的苦痛を被ったことも指摘。派遣先のNTTデータ、発注元の文科省に対する調査を行い、報告することも求めています。
全国いっせい学力テスト 全国いっせい学力テスト(学力・学習状況調査)は、「子どもと学校の序列化につながる」との批判にもかかわらず文科省が今年4月24日に実施しました。小学6年生と中学3年生が対象で、科目は国語と算数・数学。中学3年生は約116万人が受験しました。
文科省は中3分の採点業務をNTTデータに委託した理由として「業務工程をきめ細かく設定・想定」「人的作業やリスクを軽減・予防する具体的提案がなされている」などを挙げています。