2007年6月5日(火)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

「二大政党」しかないというのか


 参院選挙が間近に近づき、「緊急調査」「連続調査」などと銘打った世論調査が、新聞、テレビなどで繰り返し報道されています。電話による調査方法の発達で、近年、この種の調査を、速さを競って報道することが、マスメディアの売り物のひとつとなっています。

 この種の調査が、国民世論の断面を切り取る効果があることは事実です。同時に、調査のやり方やデータの処理しだいでは、「調査が世論をつくる」といわれるように、世論をゆがめ、誤った方向に導く危険を直視する必要があります。

世論をゆがめる

 とりわけ参院選挙とのかかわりで見過ごすことができないのは、調査そのものが自民党を支持するか民主党を支持するのかと国民の選択肢を単純化し、「二大政党づくり」をあおり立てていることです。

 たとえば「朝日」が「連続調査」として実施しているものは、参院選で「いま投票するとしたら」との質問では「自民」と「民主」しか答えを示さず、望ましい政権の形も「自民中心」か「民主中心」の二つしかありません。政党支持率でさえ、公表されるのは「自民」と「民主」で、それ以外の政党は「など」と一括されるというありさまです。

 まるで日本にはこの二つの政党しかないように扱うものであり、それによって自民か民主かの「二者択一」をあおり、どちらかに投票させようという意図を含んだものというほかありません。

 共同通信がおこなった調査も、投票先や望ましい政権については「朝日」と同じで、さすがに政党支持率についてだけは全政党を対象に発表しています。「毎日」や「日経」の調査では、投票先の政党もすべての政党名が挙げられています。

 当然ながら、選挙はすべての政党がそれぞれの主張をたたかわせ、国民の支持を競う場です。いったい「朝日」をはじめ各メディアは、その投票先を「自民」か「民主」かに絞るような調査が、政党の活動を阻害するだけでなく、主権者としての国民の権利そのものを侵害することに気がつかないのでしょうか。

 四日付「しんぶん赤旗」の「読者の広場」には、自民と民主しか選択肢がないような新聞の世論調査に、「調査に名を借りた世論誘導になる」と抗議した方の投稿が紹介されました。選挙という国民にとってもっとも大事な機会に、主権者としての国民の権利を事実上狭める調査が繰り返されることをどう考えるのか。選挙そのものをゆがめていることについて、マスメディアは国民に説明する責任があります。

対決軸提示こそ

 もしマスメディアがこうした世論調査を繰り返す根拠を、参院選では自民か民主かの「対決」が焦点だと考えているからだというなら、それこそ重大な誤りであり、真実を伝えるべきマスメディアとして、自らの役割を投げ捨てるものといわなければなりません。

 いま国政上の焦点となっている貧困と格差の打開や憲法問題をとっても、貧困を拡大する新自由主義的な規制緩和路線をすすめ、憲法九条を中心に改憲をすすめる点では自民と民主に違いはありません。貧困の打開のために規制緩和路線を転換するよう求め、国民の暮らしと憲法を守り抜くよう訴えているのは日本共産党です。自民と民主の間に対決軸がないことは見方の問題ではなく、客観的事実が示していることです。

 国政上の焦点で各党の態度を国民に知らせ、対決軸がどこにあるかを示すことこそ、参院選挙にあたってマスメディアとして強めるべき報道です。自民と民主以外を「など」と一括するなどというのは、読者である国民に選択する材料そのものを提供しないことであり、報道機関としての最低限の役割さえ果たしていないことになります。

 万万が一、ゆがんだ世論調査を繰り返すマスメディアが、今度は民主党に肩入れしてやろうと考えているからだとすれば、それこそ論外です。

 放送局は、放送法によって報道の公平さが義務付けられています。新聞社も、自らの政治的立場の表明は社説など特定の形でおこなわれるべきだというのが常識です。「中立・公正」な報道を装いながら、世論調査などで特定の党派に肩入れするのは、文字通り読者を惑わし、国民を誤って導くものであり、それこそメディアとしても、ジャーナリズムとしても自殺行為というほかありません。(宮坂一男)


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