2007年5月14日(月)「しんぶん赤旗」
イラク派兵延長
復興にも世界の流れにも逆行
与党、きょう衆院委採決狙う
与党が、十四日にも衆院イラク特別委員会での採決強行を狙うイラク特措法改悪案―。イラクへの自衛隊派兵を二年間延長することが内容です。この間の国会審議のなかで、イラクの復興にも世界の流れにも逆行する改悪案の危険性と国民だましのやり方がはっきりしました。(田中一郎)
■実績は「米軍支援9割」
政府は、派兵延長の理由について「イラクの復興努力に対する支援に腰を据えて取り組む姿勢を示す」(安倍晋三首相)と繰り返し、「人道復興支援」が空自の活動の中心だと印象づけるのに躍起です。
しかし、国会審議のなかで明らかになったのは、それがまったくの虚構だということです。
防衛省提出の資料でも、今年一―三月に航空自衛隊がイラクで行った全輸送回数四十九回のうち、国連支援はわずか七回。残りの四十二回、全体の86%が、多国籍軍=米軍支援ということになります。
さらに日本共産党の赤嶺政賢議員の追及に、防衛省の山崎信之郎運用企画局長は、空自の輸送した全体の物資重量が約二十一トンであり、このうち国連支援が約一・四トンにすぎないことを明らかにしました。物資重量では、93%が米軍支援にあたります。
久間章生防衛相は「多国籍軍の兵士も人道復興支援活動に携わっている」と弁明しました。しかし、赤嶺氏が「確認しているのか」とただすと、山崎局長は「(空自の輸送機に)乗員される方にいちいち確認はしていない」と答弁。“人道復興支援が中心だ”という政府の理屈は「何の根拠もない」(赤嶺氏)もので、でたらめであることがはっきりしました。
ブッシュ米政権は、イラクに約二万人もの増派をおこない、二月から空自の輸送先になっているバグダッドで大規模な掃討作戦を開始しました。
日本政府も、この時期に空自による国連支援の実績が減少した理由に「(国連が)イラクの治安情勢を踏まえ、要員を少数に維持し、移動頻度を抑えている」(山崎局長)ことを挙げざるをえませんでした。
「復興支援」どころか、イラク国民の生活を破壊し、国連の活動も困難に陥らせている米軍の作戦への支援を担わされているのです。
■次つぎと撤退続くなか
米軍主導の「有志連合」の中でも、次々に撤退に向けた動きが広がっているにもかかわらず、派兵延長に固執し続ける日本政府の異常さも浮き彫りになりました。
当初、イラクには三十八カ国が派兵していましたが、外務省も「すでに撤退させた国は十五カ国」(岩屋毅副大臣)と認める事態です。
それなのに、自衛隊の派兵を二年間も延長しようというのです。
赤嶺氏は「二年先まで活動を継続する意向を表明している国はあるのか」と質問。麻生太郎外相は「(派兵している国の)一カ国ずつ全部、細目を知っているわけではない」と述べ、一カ国も挙げることができませんでした。
政府は、二年間延長の理由に「多国籍軍からの要望もある。国連、イラク政府からも(要望が)ある」(塩崎恭久官房長官)と繰り返します。
しかし、空自の活動のうち国連への支援は、わずかにすぎません。
イラクのマリキ首相さえ日本のマスメディアとの会見で「今年中にも日本の部隊は必要なくなる」と発言しました。
赤嶺氏の追及に、塩崎官房長官は「確認したが、(要請ではなく)あくまで(マリキ首相の)希望を述べた発言だ」と答弁し、はからずも、イラク側が撤退を「希望」していることを示した形になりました。
結局、政府が挙げた二年間延長の理由で残るのは「多国籍軍の要請」=米軍の要求だけです。
■活動実態は国民に秘密
空自の活動実態を政府・防衛省がひた隠しにしていることの異常さは、米軍の態度と比べても際立っています。
防衛省は、空自がイラクで輸送を実施した日や、空輸した物資の種類などを一切、明らかにしていません。
ところが、米空軍と中央軍はホームページで、その日に行ったイラクなどでの航空作戦の概要を毎日、公表しています。このなかで、空自がイラクで輸送を実施した日も明らかにされています。
赤嶺氏は、このホームページの内容を示し、「米軍も公表しているのに、なぜ公表できないのか」と追及しました。久間防衛相は「多国籍軍から言わんでくれと要請がある以上、(公表は)遠慮すべきだ」と述べ、公表を拒否しました。
イラク派兵延長に一片の道理もないことがはっきりしました。米国との「かけがえのない同盟」関係を至上の命題にし、米軍支援の実態を国民の目から覆い隠したまま、法案の採決だけは急ぐという政府・与党の姿勢に批判が強まるのは必至です。
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■自衛隊のイラク派兵関連年表
【2003年】
3月 米英軍がイラク戦争開始。小泉純一郎首相(当時)がイラク戦争に支持表明
7月 イラク特措法が成立
12月 航空自衛隊の先遣隊がクウェートへ
【2004年】
1月 陸上自衛隊の先遣隊がイラクへ
10月 米調査団がイラクに大量破壊兵器はなかったと結論づける報告書を公表
【2005年】
2月 陸自の給水活動が終了
12月 ブッシュ米大統領が、誤情報で開戦を決断した責任を認める
【2006年】
6月 陸自のイラク撤退を決定
7月 空自がクウェート・バグダッド間で多国籍軍の輸送開始
9月 空自が国連要員・物資の輸送開始
【2007年】
1月 ブッシュ大統領が増派方針
3月 イラク派兵をさらに2年延長する特措法改悪案を閣議決定
4月 イラク特措法改悪案、衆院で審議入り
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