2007年5月11日(金)「しんぶん赤旗」

改憲手続き法案

やり方・内容 めちゃくちゃ

これでも採決か


 自民、公明の与党は十日、参院憲法調査特別委員会で改憲手続き法案の採決を十一日に強行することで民主の合意をとりつけました。四月十六日の参院での審議入りから一カ月にもなりません。法案は、改憲発議と国民投票の手続きを定めるという憲法にもっとも密接にかかわる法案です。その審議のあり方からも内容・問題点からも採決が許される状況にはありません。


憲法軽視の姿勢一貫

公述人に“身内”起用

写真

(写真)参考人に質問する仁比聡平議員=10日、参院憲法調査特別委

 「法案が国民主権の原理に適合しているかを精査すべきだ」。七日の福岡地方公聴会で公述人の石村善治福岡大学名誉教授はこう述べました。

 ところが、自民、公明の与党はこうした要請を無視し、審議内容も精査できない連日審議を強行したうえ、中央公聴会を開催しないまま採決を強行しようとしています。

 国会法五一条は「総予算及び重要な歳入法案」について公聴会(中央公聴会)の開催を義務付けています。その趣旨から、予算に関連しない法案でも、国民の生活に重大な影響を及ぼす重要法案については、公聴会を開催し直接国民の声を聞くのが当然です。

 最近でも、昨年末の教育基本法改定、二〇〇三年のイラク特措法、〇一年のテロ特措法などで中央公聴会が開かれてきました。今回の改憲手続き法案でも衆院の中央公聴会ではわずかな応募期間にもかかわらず、百二十四人が応募。与党案、民主党案ともに反対の人が百八人、与党修正案賛成という人はわずか一人という結果でした。改憲案の承認にかかわる国民投票は、国民主権行使そのものであり、法案について、参院で国民の声を聞かずに済ませることは許されるわけがありません。

 与党内では、衆院での採決前から「五月中旬から下旬に成立」などといわれ、採決日程先にありきでした。

 与党は衆院採決時には、法案の国会提出前の「調査」時間も計算に入れて「十分審議を尽くした」などとアピールしてきました。ところが、参院に送付されると一転、「目標審議時間は衆院での法案審査時間を基準とすれば足りる」とする“二枚舌”――。「四十時間」を「目標」にして、その「消化」をはかることを第一に、連日審議を強行してきました。

 公聴会について与党は「地方公聴会を六カ所で開いた」と強調しますが、公述人からは「出席が決まったのが三日前、事務局の資料を手にできたのは当日の朝」などという声があがり、あまりの拙速ぶりに批判続出。一日に二カ所同時開催で、一回わずか二時間という慌ただしさです。しかも公述人に自民党県議や地方幹部を動員する“アリバイづくり”に、傍聴者からも厳しい批判が相次ぎました。十日の参考人質疑では、とうとう与党推薦の参考人は空席という異常事態です。

主権者の意思どこへ

破たん・欠陥次つぎ

最低投票率設けず

 「最低投票率制度の導入を否定する論拠は正当性を見いだしがたい」

 十日の参考人質疑で、東京慈恵会医科大の小沢隆一教授が指摘したように、審議をすればするほど最低投票率制度を導入しない与党の議論に道理がないことは明らかになっています。

 “憲法九六条に書いていない要件を課すことは憲法上疑義がある”。この与党の議論は、日本共産党の仁比聡平参院議員の追及で破たんしました。法案には、九六条に書いていない「両院協議会」を盛り込みながら、最低投票率のときだけ「九六条に書いていない」という理屈を持ち出すことが成り立たなくなりました。

 地方公聴会でも、与党推薦人からも「せめて(最低投票率)40―50%の定めが必要」(名古屋会場・網中政機名城大教授)「最低投票率を定めても憲法違反とはいえない」(札幌会場・越前谷民雄弁護士)などの意見が出されるほど。

 “有権者のわずか一割、二割台で百年、二百年の国のありようを決める憲法改定がおこなわれていいのか”“主権者の意思はどこへ”との疑問は増すばかりです。

公務員・教員の運動

 公務員や教員の国民投票運動を制限する根拠もなければ規制の範囲も不明―法案の欠陥ぶりが浮き彫りになりました。

 一つは、「地位利用」を口実にした公務員・教員への運動制限です。与党の法案提案者は、公務や教育の「中立性」を持ち出したものの、「憲法について語ることがどうして職務の公正や中立性を害するのか」(仁比氏)と反論され、答弁不能に陥りました。

 もう一つは、公務員法上の「政治的行為の禁止」を口実にした制限。現行公務員法では、規制される「政治的行為」は法律や規則に列挙され、「特定の政治目的」が明らかなものに限られます。

 ところが法案は今後「三年間で検討」するとしてどのような行為が該当するのか列挙していません。与党議員からさえ、「公務員、教育者の運動規制についての考え方が法案の中で定まっていない」(自民・中川雅治参院議員)との声が出るほど。

 「現行法では自由な行為が国民投票では縛られるなどという検討があるのか」という仁比氏の追及に、法案提出者もついに「国民投票運動が、国家公務員法・地方公務員法上許される、自由だということをきちっと整理する」(自民・保岡興治衆院議員)とのべざるを得ませんでした。

有料CM野放し

 「財力の多寡による不平等が生じる恐れがある」(自民・葉梨康弘衆院議員)と法案提出者も認める有料CMの問題はどうか。法案では、投票日前二週間は禁止されるものの、それ以外は野放しです。

 日本民間放送連盟などは「放送局側の自主・自律の精神にまかせてほしい」としてきました。では、資金量の差で不平等にならないような自主的ルールを検討しているのか――参院の参考人質疑で、民放連の代表はルールづくりが各放送局まかせのうえ「民間放送局は、現時点で詰めて議論はしていない」(渡辺興二郎・報道小委員長)ことを明らかにしました。

 地方公聴会でも「改憲を声高にいう財界からどんどん資金が流れたら、一般市民が太刀打ちできない」(仙台会場・佐々木健次弁護士)と危惧(きぐ)の声が消えません。

広報協は中立性に問題

 改憲案を国民に周知するための広報協議会。法案は、改憲を発議し、国民の審判を仰ぐ立場にある国会に設置するとしています。もともと中立性に問題があるうえ、協議会は、各会派の所属議員数に比例して構成されるため、改憲賛成派が多数を占めます。改憲派が広報を牛耳り、国民に改憲論を押し付けかねない構造です。

 また、国民投票公報の配布は投票期日前十日までにおこなうとされる一方で、期日前投票は期日前十四日からできることとされています。十日の参考人質疑で小沢慈恵医大教授は「公報を見ないで期日前投票できるのは妥当な制度設計か」と批判しました。与党はだんまりでした。



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